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第一章

第10話:警告・聖女アリス視点

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 できるだけ早く、多くの人に警告を発しないと、人が滅んでしまいます。
 魔族が人を喰らおうとして大挙してやってくるのです。
 もうすでに魔族の先兵がこの世界にやって来ていて、王太子を籠絡しています。
 何とか防ごうと思いましたが、王太子は目を覚ましてくれませんでした。
 いえ、王太子だけでなくその取り巻きの多くも、魔族に惑わされてしまいました。

 哀し事ですが、人は堕落してしまったのかもしれません。
 神々の教えを失い、享楽に身を委ねてしまっています。
 このままでは、人族全てが神々の加護を失ってしまうかもしれません。
 それではこの世界が魔族に支配され、人族は魔族に喰いつくされてしまいます。
 いえ、もしかしたら、人族は羊や山羊のように魔族に飼われ、安定した食糧にされてしまうかもしれません。

「聖女様、お腹すいた」

「ごめんなさいね、直ぐに食事の用意をしますね」

「おやめください、聖女様。
 聖女様に料理していただくなんて恐れ多すぎます。
 この子達の食事の世話は私たちで用意させていただきますので、どうか聖女様はこちらでお休みください」

 私がお金を出して買い戻した元奴隷の女性たちが、慌てて孤児の世話をしようとするが、できればこうなる前に世話して欲しかった。
 王侯貴族ほど邪悪な欲望に満ちてはいませんが、貧乏のために他人に思いやる余裕を失ってしまったのです。
 哀しい事ですが、これがこの国の現実です。

 不幸な人ほど他人に優しくなれるという考えもありますが、それも程度問題です。
 余りに不幸過ぎると、優しくなるどころか恨み辛みしか浮かばなくなります。
 死ぬか生きるかの飢えに苛まれたら、人間を食べてでも生き抜こうとしてしまうのが、人間という生き物です。
 そんな状態に追い込まれた人間に、神々の教えを守れと言ってむ無理な話です。

「分かりました、皆の想いを受けさせてもらいます。
 ただ気を付けてください、子供たちは自分では食べ物を確保できません。
 子供たちが飢えないように、大人が気を付けてあげなければいけません。
 私もうかつでしたが、子供の方がたくさん食べないと飢えてしまいます。
 子供たちには一日五回に分けて食べさせてあげてください。
 貴方たちも一緒に食べていいですからね」

「ありがとうございます、聖女様。
 お気持ち通り、子供たちを飢えさせる事のないように気をつけさせていただきますので、どうか心配されることなくお休みください」

 買い戻した奴隷の中には、心利いた者もいるようです。
 この者を中心に、孤児院を開設すれば、子供たちを安心して任せらるでしょう。
 残念な事ですが、今日助けた子供たちだけに気を配る事はできません。
 この国のありとあらゆる場所を巡り、明日も明後日も不幸な者助けなければいけないのです。

 委ねられるところは他人に委ねなければ、より多くの人を助ける事はできません。
 その為に見落とし欠け落ちるものも出てくるでしょう。
 その事には胸が張り裂けるほどの痛みを感じますが、それでも他人に委ねなければいけないのです。
 一人の見落としを防ごうとして、千人万人を救う手が遅れることもあるのです。
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