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第2章

39話

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 アームストロング侯爵家は、帝国でも一番広大な領地を持つ外様貴族だった。
 それが帝国の苦役で、これ以上借金できないくらい貧困に喘いでいた。
 だがそれでも、百万人の領民を抱える大貴族だ。
 しかも本家に加えて、三家の分家伯爵家が存在する。
 それぞれが十万人の領民を抱える、伯爵家の中でも大きな家だ。

 その四家全てが、第一次第二次大公国討伐軍にも参戦させられていた。
 どちらの指揮も、第一公子のロイ・アームストロングが執っていた。
 勿論老臣をはじめとした家臣の補佐を受けてだが。
 そのロイが決断したのだ。
 帝国と対決すると。

「ですが、若。
 アームストロング侯爵家であろうとも、帝国が本気を出せば、簡単に踏み潰されてしまいますぞ」

「そんなことはない。
 いや、今なら大丈夫だ。
 帝国はアロン大公家の精鋭と戦っているんだ。
 帝都を空には出来ない。
 大軍を残すしかない」

「しかし、若。
 アームストロング家以外の外様が動員されて、領地に攻め込んできますぞ」

「大丈夫だ。
 もうどの外様にも戦う余力などない。
 あったとしても、本気で攻め込んでは来ない。
 帝国が斥候や監軍を付けなければ、戦う振りをするだけだ」

 ロイ・アームストロングは骨身に染みて理解していた。
 もうどの外様貴族士族にも余力がない事を。
 借財で財政が破綻寸前で、食糧も底をついている。
 まともな戦闘力はない。
 アームストロング侯爵家がそうなのだ。

 外様貴族最大のアームストロング侯爵家が立てば、他の外様も立つ。
 問題はアロン大公家が味方してくれるかどうかだ。
 実際に戦った感じでは、外様を味方にしているように思える。
 だが確証がある訳ではない。
 家臣領民百万人の命を預かる身としては、確証が欲しい。

「大公家に婚約を申し込む。
 いや、婿入りでも構わん」

「そんな。
 若はアームストロング侯爵家の跡取りではありませんは。
 それを婿入りとは。
 まさか。
 人質になる御心算ですか」

「アロン大公家も、表立って人質を寄こせとは言えんだろう。
 だからこちらから人質を出す覚悟を示す。
 それも他の者ではない。
 アームストロング家の嫡男だ。
 信用してくれるだろう」

 ロイ・アームストロングは覚悟を決めていた。
 家のため。
 家臣領民のため。
 命だけでなく、騎士の誇りさえ捨てる覚悟を。
 それを示すのが、実質人質の嫡男婿入りだ。

「ですが、若。
 大公家がユリア様の婿に選ぶとは限りませんぞ。
 我がアームストロング侯爵家の足許を見て、レーナ様の婿にと言って来るかもしれませんぞ」

「それくらい覚悟はしているさ。
 大公家の方も、味方は多い方がいいだろう。
 ユリア殿とレーナ殿の二人に婿を取ろうとするだろう。
 その場合、帝室の縁戚貴族や譜代貴族を切り崩すなら、余ではなくユリア殿の婿に迎えるだろう」

「なるほど。
 大公家も苦しいのですな。
 では早速私が使者に立たせていただきます」
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