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第2章

32話

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「殿下、ユリアとレーナの婿をどうなされるのですか?」

 大公妃のサラーは思い切って聞いた。
 帝国との戦争を決断して、帝孫とユリアの婚約を破棄した。
 もう誰に遠慮する事無く、自由に婚姻相手を決めることが出来る。
 ユリアは女大公になる身だから、相手は誰でもいいわけではない。
 だが少なくとも帝国の意向に従う必要はなくなった。

 母親としては、愛し合った相手と結婚させてやりたい。
 だが、帝国と戦争をしている最中だ。
 ユリアの結婚は、どうしても政治的軍事的な意味を持ってしまう。
 帝国に負けるようなことになれば、悲惨な境遇となるのは間違いない。
 楽に死なせては貰えないだろう。

 産まれて来たことを後悔するほどの地獄に落とされるだろう。
 私達はいい。
 私と大公はその覚悟で戦を決意した。
 しかし娘達には、そのような境遇を味合わせたくない。
 その為には、不本意な婚姻であろうと、結ぶことも必要になる。

 レーナの事は少しは安心出来るようになった。
 一緒に暮らし始めた当初は、とても心配していた。
 だが彼女には、暁の徒士団がいた。
 彼らの武勇と忠誠は本物だった。
 彼らの中から婿を選べば間違いないだろう。

 特に団を代表する三人の騎士は、武勇も忠誠も突出している。
 三人の誰を選んでも、レーナは幸せになれるだろう。
 シューベルト侯爵家を継ぎ、女侯爵となっても安泰だろう。
 レーナは大公家の継承順位を持っているが、嫡女ではない。
 その分婿選びはまだ楽だ。
 あの三人なら、大公の座を狙って謀叛を起こす事などないだろう。

 だがユリアの婿はそうはいかない。
 女大公の配偶者となるのだ。
 その権力は絶大となるが、大公ではないのだ。
 でしゃばらず、ユリアを立ててくれる者が理想だ。
 ユリアの前に出て、大公家を横領しようとするような者は絶対に選べない。

 だが、それもこれも、帝国に勝てればの話だ。
 帝国に負ければ未来はないのだ。
 勝つためには、望まぬ婚姻を結ぶ必要もでてくる。
 殿下が育て上げた騎士団員から選べれば一番いいのだが、戦況が悪くなったら、帝国に虐げられている外様貴族から婿を迎え、同盟して帝国と戦う必要も出てくる。

 それでも勝ち目が薄いのなら、後の後継者争いや謀叛の危険には目をつむり、レーナにも帝国外様貴族から婿を迎える必要がある。
 戦況が悪化してからでは、結べる婚約も結べなくなる。
 帝孫との婚約を破棄したように、必要なら帝国に勝った後で婚約破棄してもいいのだ。
 帝国の外様貴族も同じ事を考えるはずだ。

 戦況が有利な内に、使者だけは送っておきたい。
 実際の婚約や同盟が締結できなくても、連絡をつけるだけでいい。
 そうすれば帝国の眼が大公国以外にも向く、
 そうなれば、帝国の戦力を少しでも分散することが出来る。
 急がなければならない。

「心配しなくていい。
 次の手は考えている」
 
 でも、大公殿下には腹案があるようです。
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