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第1章

1話

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 養父母からの躾けの一環で、底冷えする礼拝堂で祈りを捧げていた。
 高熱があるにもかかわらず、薄着一枚羽織っただけで、素足で礼拝堂に入れられた。
 精神力で朦朧とする意識を保ち、何とか一時間は祈りを捧げたが、二時間が過ぎる頃には倒れてしまった。
 ろくに食事を与えてもらえないので、体力がないのだ。

「ようやく死んだか」
「清々したわ」
「これで大公家の富は我らのモノだ」
「大公の位もね」

 最初から私を殺す心算だったのだ。
 私の生家であり、養父の生家でもある、大公家を乗っ取るために。
 養父母からは、愛情のかけらも与えられなかった。
 だがそれも、忌み嫌われる双子に生まれた宿命だと諦めていた。

 だが違ったのだ。
 私の所為ではなかったのだ。
 養父母の方が邪悪だったのだ。
 繰り返し叩きつけられた悪意ある言葉も、私が忌み子だからではなかったのだ。

「これで大公夫婦と、ユリアを殺した甲斐があるというモノだ」
「でも貴方、本当に帝国は、私達が大公の地位に就くのを認めるのかしら」
「もう大公の血縁は我らしかおらん。
 それに、我らが事の真実を話せば、大公軍が反乱を起こす。
 そんな愚行はせんよ」
「確かにそうね」

 養父母は、私が完全に死んだと思っているようだ。
 確かにもう助からないだろう。
 だが、この恨みは忘れない。
 私ばかりか、父母と姉も殺していたなんて。

 実の兄夫婦と姪を殺すとは。
 しかも分家した以上、忠誠を尽くすべき主人でもあるのだ。
 それを、兄でもある主人を裏切り、他国に母国を売ったのだ。
 私の事を畜生腹と罵っていたが、貴方達こそ犬畜生にも劣る、人非人だ!

 許さない。
 絶対に許さない。
 もう人に生まれ変われなくてもいい。
 この恨みを晴らさずにはおられない。

 神でも悪魔でもいい。
 あいつらに天罰を与えて欲しい。
 神が天罰を与えてくれないと言うのなら、悪魔よ、魂を売り渡します。
 私の魂を代価に、あいつらに罰を与えて下さい。

 もう、意識が保てない。
 嫌だ。
 このまま死にたくない。
 何としても復讐したい。

 あいつらから受けた、暴行の数々を思い出して、何としてでも意識を保つ。
 あいつらに心を傷つけられた、暴言の一つ一つを思い出して、心の疵が再び破れ、叫びたいほどの怒りと哀しみが意識を保つ。

 神様、天罰を与えて下さい。
 悪魔よ、我が魂にかえて報復して。

 事あるごとに食事を抜かれ、空腹に眠れぬ夜を過ごした。
 事あるごとに殴られ、服の下は傷と青痣だらけになった。
 それでも、実の両親である大公夫婦の前では、笑顔を強要された。
 全ては私が双子の妹に生まれたからだと思っていたが、違ったのだ。

 養父母の邪悪な欲望の捌け口だったのだ。
 実の両親である大公夫婦に虐待がばれないように、服で隠せる場所にだけ暴行を加えていたのだ。
 許せない。
 絶対に許せない。

 悪魔よ。
 魂だけで無理なら、私の全てを与える。
 何か分からないが、悪魔が欲するモノを全て与える。
 だから、どうか、復讐してください。
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