居酒屋の聖女

克全

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7話

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「ギュンター。
 今日から組長をやってもらう。
 まあ、これからもよろしくな!」

 ギュンターは苦々しい想いを押し殺していた。
 今まで横柄だった警備隊の隊長が、揉み手をせんばかりにすり寄ってくる。
 ギュンターとルーベンが、たった二人でベイク組に乗り込み壊滅させ、犯罪者ギルドを乗っ取ったのを知り、内心とても恐れているのだ。

 それに、今まで通り賄賂も贈られている。
 警備隊を止めないのなら、それそうおうの役目を与えておく方がいい。
 ギュンターとルーベンに恩を売っておけば、今まで以上の賄賂が贈られるかもしれないと、内心計算していたのだ。

「やあ、アンナ。
 今日も美味しい味噌煮込みを頼むよ」

 ギュンター組長とルーベン組長が、配下の警備隊員四人ずつを引きつれ、多くの居酒屋を巡回した後で、最後にアンナの店にやって来た。
 いつもならギュンターがアンナに声をかけるのだが、警備隊長の手のひらを返した態度の腹を立て、話しかけると声に怒りがにじんでしまうので我慢していたのだ。

「今日は羊の内臓なんだけど、それでもいいの?」

「ああ、大丈夫だよ。
 アンナの作る味噌煮込みというシチューは、全く臭みがないからね」

「まあ、ギュンターは私と口もきいてくれないの?
 とてもさみしいわ」

「いや、アンナと話すのが嫌なんじゃないんだ。
 ちょっと嫌な事があったんで、声に険がでてしまうんだ。
 そんな状態では、アンナに話かけられないと思ったんだよ」

 八人の平警備隊員が目を見張って驚いていた。
 よく言えば純情。
 悪く言えば女を知らないギュンターに、驚くような美人が話しかけるのだ。
 いや、単に話しかけるのではなく、とても親しく、まるで恋人のように甘えた話しかけ方をするのだ。

 もちろんアンナも意識してそんな話し方をしていた。
 警備隊員達に、わざと誤解されるような話し方をした。
 アンナがギュンターの恋人で、商っている居酒屋で乱暴を働いたり、無銭飲食をしたりすれば、どんな報復がるか分からないと思わせようとしたのだ。

 だがそんなアンナの思惑など、純情なギュンターに理解できるはずもない。
 それどころか、アンナがいつもより色気を漂わせている事にも気がついていない。
 ただひたすらアンナを聖女のように敬っていた。
 ギュンターから見たアンナは、売春婦達と孤児達を助けた聖女そのものだった。
 自分がやりたくてもやれなかったことを、女の身でやってくれた、自分などが側に立つことも恐れ多い相手だと思っていたのだ。
 それでも、アンナへの愛情を消す事はできないのだから、人の心はままならない。
 そんなアンナとギュンターを、ルーベンは複雑な心境で見つめていた。
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