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第三章

99話

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「慌てなくていい、全員に行き渡るまで終わらないから。
 二杯でも三杯でもお替りしていいから、順番は守れ!
 一杯目の人間を優先しろ、守らないと二杯目を渡さないぞ!
 仕事が欲しい人間はこっちに並べ、飯を喰ってからでいいぞ。
 病気を癒して欲しい人間はこっちだ。
 御嬢様が治して下さるんだから、ちゃんと風呂に入ってもらうからな!
 蚤や虱をつけたまま来るんじゃねえぞ!」

 家臣達が面白いくらい真っ赤になって大声で叫んでいます。
 私に虫がついたままの病人を診させたくないのでしょう。
 ですが私は蚤や虱を気にしたりしません。
 そんな事を気にしていたら、タマやムク達と触れ合う事などできません。
 それに中級精霊の御陰で、虫が私に近づかないのです。
 除虫駆虫効果が私を護ってくれています。

「聖女様!
 ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます!」

「まだ安心してはいけません。
 その子には栄養が足りていません。
 このままでは栄養失調で死んでしまいます。
 ちゃんと食事を与えないと死んでしまいます」

「申し訳ありません、聖女様。
 頑張って食べさせます、ですから見捨てないでください」

「見捨てたりはしませんよ。
 貴女が身体を張って子供達を育てている事は知っています。
 ですが今の貴女では、満足に客をとる事ができないのではありませんか?」

「御嬢様!
 御嬢様がそこまで気にする事はありません!
 どうしても食事が必要なら、炊き出しにくれば何とかなります。
 炊き出し担当に言葉をかけておきますから!」

 リリアンは私の気持ちを察して黙っていてくれますが、母上が私につけた侍女が口出ししてきます。
 私の、いえ、シーモア公爵家の体面を考えての助言でしょうが、私の行く道を邪魔されているように感じてしまって、苛立ってしまいます。
 この苛立ちは孤高の魔虎タマの影響でしょうか?
 それとも序列に厳しい魔犬のムク達の影響でしょうか?

「黙りなさい!
 私は恵まれない人達に救いの手を差し伸べると決めたのです。
 私の行く道を阻む事は許しません!
 今度差し出がましい口を利いたら、二度と同行を許しません。
 リリアン、次にこの者が余計な事を口にしたらつまみ出しなさい!」

「はい、御嬢様」
「ガァオァァァ!」
「ウゥゥゥゥ!」
 
 リリアンが即答してくれたと同時に、私の側にはべっていたタマとムクが歯を剥いて、余計な事を口にした侍女を激しく威嚇しました。

「ヒィィィィ!」

 侍女が恐怖のあまり失禁してしまいました。
 こんな胆力のない侍女にかまっている暇はありません。

「この者の言う事は気にしなくていいわ。
 貴女が考えるのは子供達を餓えさせないことよ。
 私の仕事を手伝わない?
 給金は安いけれど、貴女と子供達に御腹一杯の食事を毎日三度与えるわ。
 どうかしら?」

「ああ、御嬢様!
 どうか、どうか、お助け下さい!
 私を働かせてください!」
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