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第三章

96話

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「慌てなくていい、全員に行き渡るまで終わらないから。
 二杯でも三杯でもお替りしていいから、順番は守れ!
 一杯目の人間を優先しろ、守らないと二杯目を渡さないぞ!」

 私が助け出した元奴隷達が慣れない仕事を任されて緊張しています。
 彼らが犯罪に巻き込まれないように、シーモア公爵家の私兵が護っています。
 下町、と言うのは言葉を飾りすぎですね。
 貧民街と言うほうが的確な場所です。
 今日はここで炊き出しをしています。
 偽善ではありますが、餓えて犯罪に走る者を減らしたいのです。

 私は完全装備の戦闘侍女達に護られています。
 魔犬のムク達だけでなく、魔虎まで側にいるので、貧民街を根城にしている犯罪者組合も全く現れません。
 ローマンが集めていた情報では、彼らは私が度々刺客を退けたばかりか、黒幕に復讐をしている事も知っているようです。
 犯罪者組合も情報を集めて、暗殺などの依頼を受けてはいけない貴族士族を見極めているそうです。

「レヴィ、後を任せても大丈夫ですか?」

「お任せください、御嬢様。
 犯罪者組合には話を通しております。
 御嬢様がなさりたいとおりの事をなされてください」

「ありがとう、レヴィ」

 レヴィは今回の炊き出しの責任者として選ばれたヴァレットです。
 シーモア公爵家に仕えるウォーカー準男爵家の嫡男でもあります。
 経験を積むために、父親の後見を受けながら、犯罪者組合との交渉をするのです。
 全ては私の理想を実現するためです。

 王太子に愛想が尽きた私は、独立して生きることに決めたのです。
 シーモア公爵家から正当に分与される領地や地位を辞退する気はありません。
 ですが、私は私で実力で爵位や権利を手に入れたいと思ったのです。
 その力を背景に、王家王国と交渉したいと思ったのです。

 精霊達とタマやムク達の力を借りれば、不可能な事などないのではないかと思ってしまうくらいです。
 精霊達とタマの性格に影響されているのでしょうが、無能な王族の言いなりになって生きるのが嫌なのです。
 まだ反逆しようとまでの想いではありませんが、このまま王太子が身勝手なことをやり続けたら、怒りに我を忘れてしまうかもしれません。

 そんな事にならないように、適度な発散が必要だと思ったのです。
 その一つが炊き出しを行って王家の失政を正す事であり、有能な人間を探し出す事でした。
 貧民街に住んでいる人間だからと言って、全員が無能ではありません。
 犯罪者組合という、一大勢力を築くくらいの才能がある人間がいるのです。
 良心を保って貧民を続ける才ある者がいると信じています。
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