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第三章
86話
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私は、生まれて初めて暗殺を行いました。
私を密かに殺そうとした卑怯者とその家族ではありますが、不意を突いて抵抗できない状況で殺したのです。
とても苦い思いをするかと思っていましたが、私の心には全くなんの感情も浮かんできませんでした。
それを心が強くなったといっていいのか、それとも心が壊れてしまったといった方がいいのか、私にはわかりません。
でも一つだけはっきりしていることがあります。
暗殺は初めてですが、襲ってきた敵を殺すのは初めてではないのです。
絆を結んでいたムク達が、私を護るために命がけで戦ってくれていた時に、幾人幾十人もの人間を殺しています。
その時には、私を護ろうとするムク達の人間に対する怒りの感情の方が、私にはとても強く、人を殺すたびにむしろ喜びの心が沸き上がっていました。
魔獣を狩っていた時には、ムク達は私のために同族である魔犬達を襲い殺していたこともあるのです。
それを考えれば、私が私を殺そうとした人間に報復して殺す事は、心を乱すようなことではありません。
ですが心配なこともあります。
私は人の心から離れて行っているのかもしれないという事です。
人よりも魔犬に近い心に持ちようになっているのかもしれません。
それに加えて、もっと獰猛な魔虎とも絆を結びました。
四人もの中級精霊と絆を結びました。
彼らにとって人間など塵芥のような存在なのかも知れません。
だからなのかもしれません。
あれほど恋焦がれ毎夜夢見ていた王太子殿下のことを、全くぜんぜん夢に見ないようになりました。
王太子殿下のことを思い出しても、胸が痛くなることがなくなりました。
いえ、それどころか、思い出すことすらなくなってきました。
そんなことよりも、デビルイン城に残してきた魔犬達。
特に子魔犬達のことが気になって仕方ありません。
むしろ子魔犬達を夢見て枕を涙で濡らすほどです。
心から溢れ出るのは子魔犬達に対する母性です。
王太子殿下に対する恋心など、もう私の心のどこにもありません。
「リリアン、どうしても王都に戻らなければいけないかしら?」
「今回の襲撃で顔に大きく醜い火傷を負ったと報告して、治療のために領地に戻ることも可能ではございますが、あの王太子殿下のことですから、必ず治療のために王家の侍医や魔法使いを使わしてくることでしょう。
それらの方々を騙すのは難しいかと思われます」
「そうね、それも面倒ですね」
「御嬢様は王太子殿下にお会いしたくないのですか?」
「ええ、もうお会いしたいとは思っていません。
なぜあれほど恋焦がれていたのか、今では全く分かりません」
「ではむしろ王都に行かれて、そのお気持ちを正直に申し上げればいいのではありませんか?」
私を密かに殺そうとした卑怯者とその家族ではありますが、不意を突いて抵抗できない状況で殺したのです。
とても苦い思いをするかと思っていましたが、私の心には全くなんの感情も浮かんできませんでした。
それを心が強くなったといっていいのか、それとも心が壊れてしまったといった方がいいのか、私にはわかりません。
でも一つだけはっきりしていることがあります。
暗殺は初めてですが、襲ってきた敵を殺すのは初めてではないのです。
絆を結んでいたムク達が、私を護るために命がけで戦ってくれていた時に、幾人幾十人もの人間を殺しています。
その時には、私を護ろうとするムク達の人間に対する怒りの感情の方が、私にはとても強く、人を殺すたびにむしろ喜びの心が沸き上がっていました。
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それを考えれば、私が私を殺そうとした人間に報復して殺す事は、心を乱すようなことではありません。
ですが心配なこともあります。
私は人の心から離れて行っているのかもしれないという事です。
人よりも魔犬に近い心に持ちようになっているのかもしれません。
それに加えて、もっと獰猛な魔虎とも絆を結びました。
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彼らにとって人間など塵芥のような存在なのかも知れません。
だからなのかもしれません。
あれほど恋焦がれ毎夜夢見ていた王太子殿下のことを、全くぜんぜん夢に見ないようになりました。
王太子殿下のことを思い出しても、胸が痛くなることがなくなりました。
いえ、それどころか、思い出すことすらなくなってきました。
そんなことよりも、デビルイン城に残してきた魔犬達。
特に子魔犬達のことが気になって仕方ありません。
むしろ子魔犬達を夢見て枕を涙で濡らすほどです。
心から溢れ出るのは子魔犬達に対する母性です。
王太子殿下に対する恋心など、もう私の心のどこにもありません。
「リリアン、どうしても王都に戻らなければいけないかしら?」
「今回の襲撃で顔に大きく醜い火傷を負ったと報告して、治療のために領地に戻ることも可能ではございますが、あの王太子殿下のことですから、必ず治療のために王家の侍医や魔法使いを使わしてくることでしょう。
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「ええ、もうお会いしたいとは思っていません。
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