上 下
81 / 111
第三章

80話

しおりを挟む
 過去の反省は後です。
 今自分に出来る事を考えなければいけません。
 魔虎と絆を結ぶのが無理なら、他に何ができるでしょうか?
 何度も引き千切られているとはいえ、オーロラとノームが創り出した土錠は魔虎の行動を阻害してくれています。

 私がノームと絆を結び協力出来れば、もう少し長時間拘束できるかもしれません。
 もしノームと絆を結ぶ事に失敗した上に、ムク達との絆まで断ち切られるような事になった、とても哀しく寂しいでしょう。
 ですが私から解放されたムク達は、魔虎に挑まずに済みます。
 自由に逃げだす事ができます。

「オーロラ。
 精霊と絆を結びます。
 協力してください」

「え、あ、はい!
 精神を集中して、大地の精霊に祈って下さい。
 祝詞は私の後に続けて下されば大丈夫です」

 オーロラは直ぐに私の意図を察してくれたのでしょう。
 私が追唱出来るように、大きな声でゆっくり祝詞を唱えてくれます。
 囮作戦が無効だと判断したリリアンが、私を護ろうと駆け戻ってきます。
 痛み止めが効きだしたのか、コックスも私の盾になろうとしてくれています。
 戦闘侍女達が次々と吹き飛ばされています。
 盾と鎧が破損していな戦闘侍女の数が残り少ないです。

 オーロラの祝詞が二度目に入りました。
 一度目は何の反応もありません。
 以前に話を聞いた時に、一度で諦めずに何度の挑戦すると聞いていましたから、諦めはしませんが少々落胆はあります。
 ムク達の御陰で勝手に身体強化されているので、精霊とも絆を結べると軽く考えていました。
 絆とは、そんな簡単なものではないのですね。

 残り少なくなった完全武装の戦闘侍女を助けようと、魔犬達が身を挺して戦ってくれます。
 魔虎が牽制を無視するので、反撃を喰らうのを覚悟して、魔虎の後ろ脚に噛みついてくれますが、そのために魔虎の爪撃を受け、深手を負ってしまいます。
 私のために、私を護ろうとして、大きな傷を受ける覚悟で突っ込んでいってくれるのです。
 私が命を賭けないでどうするのですか!

「土精霊様!
 私の命を捧げます。
 どうか、どうか、私のために命懸けで戦ってくれている者達を御救いください。
 魔虎を拘束し、皆が逃げる時間を御与えください」

「駄目です、御嬢様!
 御嬢様が亡くなられるような事があれば、我ら一同後追いいたしますぞ!
 死を代償にするなど、愚かでございます」

 ああ、何という事でしょう。
 皆が同じ覚悟をしていると、リリアンの言葉に反応した表情から見て取れます。
 主冥利に尽きます。
 ですが、だからこそ、祈るしかありません。
 彼女達と、ムク達を助けるために。
 彼女達が示してくれた忠臣に報いるためにも、主として命を賭けなければ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。 はずだった。 目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う? あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる? でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの? 私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?

真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

処理中です...