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第三章

76話

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 ずぶぬれになった魔犬達は、本能的に恐れる火に対しても、必死で本能にあらがい、私の指示通り炎の壁に突っ込んでくれました。
 最初はずぶぬれなので問題無く炎の壁に入れました。
 水分が蒸発する手前に、オーロラとノームがトンネルを創り出してくれました。
 その御陰で魔犬達は無事に炎の壁を突破する事ができました。

「ウォォォォォン!」

 雄叫びと共に、魔犬達の逆襲が始まりました。
 彼らは格段に強くなっています。
 一噛みで手足を噛み千切り、倒れた襲撃者の喉笛を喰い破ります。
 魔犬達が情報を送ってくれる私の心眼に、魔法使いらしい男が映ります。
 私はこれ以上魔法を使わせないように、魔法使いを先に殺すように指示しました。

 殺人に対する恐れというか、忌避感は多少あります。
 ですが、それ以上に仲間を傷つけられた怒りの方が大きいのです。
 正直な話、徐々に人の感覚から、魔犬の感覚に慣れてしまった感じがします。
 元々魚肉を食べる事に忌避感はありませんでした。
 でも、自分の手で狩りをして獣を殺す事には、少し抵抗がありました。
 ですが、魔犬達と絆を結んでからは、全く抵抗がなくなりました。
 私が平気で人を殺せと命じられるのも、魔犬達の影響かもしれません。

「御嬢様。
 状況を教えていただけますか?」

「奇襲が成功したようです。
 トンネル作戦は大成功ですね。
 ほとんど抵抗される事なく、襲撃者を斃しています。
 今三人目の魔法使いを斃しました。
 魔道具を持っている者も次々と斃しています。
 全滅も時間の問題です」

「そうですか、それはよかったです」

「ガァアァアァァアア!」

「敵です!
 魔虎です!」

 私が命じる前に、ムクとアズ、それにコックスの魔犴一頭が駆けだしました。
 よほど強敵なのでしょう。
 私にまで恐れと緊張が届きます。
 まともに戦うのではなく、牽制して時間稼ぎしてくれるようです。
 襲撃者に向かった仲間に、戻れとムクが指示を出しています。
 私の指示を否定してでも、彼らを戻さなければいけない緊急事態のようです。

「リリアン!
 魔虎はとても強敵のようです。
 ムクが魔犬達に集合をかけました。
 気をつけてください!」

「五陣だ!
 御嬢様を死守せよ!」

 リリアンを戦闘侍女を全員集合させました。
 元々近くにいたのですが、堅守円形陣を命じる事で、強敵が現れた事を周知徹底したのでしょう。
 しかし、誰一人欠けることなく、魔虎を撃退できるのでしょうか?
 ムクから伝わる情報では、魔虎は体高一三〇センチくらい、体長は三〇〇センチを超えているようです。
 体重も三〇〇キロを軽く超え、圧倒的な質量と威圧感でムクを怯ませています。
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