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第三章

73話コックス視点

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「キャァァァァア」

 卑怯者達め!
 絶対に許さない!

「コックス!
 何が起こったの!」

「目潰しです。
 敵が魔犴に目潰しを使ってきました!」

「御嬢様に癒しを!」

「待ちなさい!
 魔犴が受けた目潰しを洗い流さないと、癒しを使っても無駄です。
 コックス。
 魔犴を使って撤退させられる?」

「やってみます」

 流石リリアン殿。
 この状態になっても冷静です。
 御嬢様の事が心配で心配でたまらないのに、最適な判断が下せます。
 それに比べれば、私もオーロラもまだまだです。
 特にオーロラは、まだ精霊を御嬢様のパートナーに授けられていないので、少し焦りがあるようです。

「ウォォォォォォン」

「追撃が止まりました。
 敵が逆撃を警戒しています」

「戦闘侍女!
 攪乱音!」

「「「「「はい」」」」」

 私の報告を受けたリリアン殿が、御嬢様に痛み止めを処置しながら戦闘侍女達に新たな命令を下しています。
 襲撃者への最適な対応は当然ですが、御嬢様の苦痛も無視できないのでしょう。
 御嬢様が両手で顔を覆って苦しんでおられるのを少しでも楽にしようと、治癒薬ではなく痛み止めを選んだのですね。

「リリアン殿。
 痛みでのたうちまわっていた魔犴達が起きました」

 御嬢様に処方した痛み止めが魔犴にも効果を発揮したのですね。

「今のうちに水場で身体を洗わせなさい。
 無理なら洗浄の魔法で、顔だけでも洗うのです。
 オーロラ。
 ここが勝負時です。
 精霊の力を全て使ってでも、洗浄しなさい」

「分かりました。
 ですが大丈夫です。
 リリアン殿が事前に探させておられて池には、十分な水があります」

 リリアン殿の指示にオーロラが的確に返事しています。
 オーロラも動揺から立ち直ったようです。
 私も間違いがないように確認しておいた方がいいですね。

「池の方ですね。
 泉や沼ではありませんね」

「はい、池の方です。
 泉では水が足りません。
 沼には危険な魔獣が岸近くにいます」

 リリアン殿はとても慎重です。
 王都まで戻る旅程を、事前に詳しく調べています。
 一般的に知られている情報は当然の事、シーモア公爵家の密偵が調べた情報を取り寄せた上に、直前情報としてムク達に索敵までさせて情報の確認をしています。
 王家直轄領の魔境近くで敵の襲撃を撃退すると決められた時、危険を冒して魔境の中まで調べていましたが、こんな最悪の状況も想定していたのでしょう。

「馬車を捨てる。
 御嬢様はルイ―ザが相乗りしろ。
 御嬢様の馬と予備の馬は親衛が確保しろ。
 二の陣で魔境に入り池を目指す。
 最悪の場合は予備の馬を捨てる」

「「「「「はい」」」」」

 リリアン殿は池で魔犴達を完全に洗うようです。
 今は痛み止めで苦痛を感じなくなっていますが、御嬢様に使っている痛み止めの効力が切れたら、また苦しみだすかもしれません。
 洗浄の魔法や精霊の力を使わなかったのは、長期戦になると判断したのでしょう。
 私もその心算で戦わないといけません。
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