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第三章

70話

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 コックスが戻ってきました。
 何か吹っ切れたような表情をしています。
 シーモア公爵家のため、私のため、暗殺という汚れ仕事をやってくれたのです。
 私も、このまま隠れ暮らす訳にはいきませんね。
 私には私の役目があるはずです。
 公爵家令嬢で、王太子殿下の元婚約者だからできる汚れ仕事があるはずです。

「リリアン。
 私はシーモア公爵家に生まれた者として、責任を果たしたくなりました。
 ウィリアム王太子殿下を愛し護るだけではなく、この国を護りたいのです。
 私は王都に戻るべきなのでしょうか?
 それとも領地にいるべきなのでしょうか?」

「恐れながら確認させていただきます。
 本気でございますか?
 本気で、命を賭けて、家のため国のため、働かれる御覚悟なのですか?」

 リリアンの眼が怖いくらい本気です。
 一瞬怯みそうになりましたが、心を奮い立たせました。
 私もコックスに負けていられません。
 戦闘侍女も命懸けで仕えてくれています。
 何より、リリアンが誇れるような主人でいたいと、心から思うようになりました。

「本気です。
 私はリリアン達が誇れるような主人でありたいと、そう思うようになれました。
 リリアン達が、誠心誠意仕えてくれるのを見てきたから、そう思えるようになれたのです。
 私を誇り高い本当の貴族にしてください」

「承知いたしました。
 これからは今まで以上に厳しく接しさせて頂きます。
 まず、王太子殿下への甘い態度は改めていただきます。
 御嬢様が王太子殿下を甘やかすと、殿下が暗愚になってしまいます」

「リリアン。
 そんな事を口にするリリアンこそ、私に甘すぎるのではなくて?」

「いいえ、間違った事は口にしておりません。
 御嬢様は何時でも間違いを謝り正してくださいます。
 ですが王太子殿下は違います。
 しかも最近では、媚薬を盛られて離宮に幽閉されるほど危険な状態です。
 御嬢様に命懸けで諫めていただかないと、民が苦しむ事になるのです」

 やれやれ、リリアンにも本当に困ったものです。
 上手く言い訳しますが、誰よりも何よりも、私を大切にしてくれています。
 だからこそ、私も身を引き締めて行動しなければなりません。
 殿下を愛する事が全てだった私が、急にここまで考えが変わるなんて。
 何かおかしい気もしますが、いい変化だと思うので、まあいいでしょう。

「御嬢様。
 多少危険ではありますが、準備が整い次第、領地をでていただきます。
 囮となって刺客を集め、黒幕を炙りだしていただきます。
 本当に宜しいのですね?」

 おや、リリアンがこんな危険な提案をしてくるとは思いませんでした。
 ですが、ムク達との絆を考えたら、私は不死の存在になっているのです。
 少々の事は大丈夫と考えを改めてくれたのかもしれませんね。

「ええ、大丈夫です。
 覚悟はできています」
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