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第二章

49話

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「姫様。
 人が扱える魔獣がこれほど強いとは思いませんでした。
 いえ、魔獣どころか銀狼の強さも驚きです」

 メイソンが嬉しそうに話しかけてくれます。
 叔父上の代わりに、メイソンが第二騎士団代表として側にいてくれます。
「私が姫様の盾となります」
 兄上に似た顔でそう言ってくれた時は、嬉しいような可笑しいような、とても不思議な気分になりました。
 
「私のムク達を褒めてくれて嬉しく思います。
 魔犬も銀狼も種族に関係なく、よく連携が取れているでしょう。
 彼らは私を頭に群れを作っているのです。
 だから城の中を自由に動ければ、どれほど優秀な密偵が城に入り込んだとしても、直ぐに私に知らせてくれます」

「分かりました。
 ムク達が自由に振る舞えるように、城の者達に指示しておきます」

 メイソンが私の言いたい事を推し量って、即座に答えてくれました。
 血縁的には私の従兄弟なのですが、常に家臣として振る舞ってくれます。
 幼い頃に私が王太子殿下の婚約者に選ばれたせいでしょう。
 婚約を解消して、やっと家族として振る舞えると思っていた方々と、一度も家族として振舞う事なく、また王太子殿下の婚約者候補にされてしまいました。
 王太子殿下の想いは嬉しかったですが、その点はとても寂しく哀しい事でした。
 他の人達は些細な事と言うかもしれませんが、私にはとても重要な事なのです。

「御嬢様、お気付きですか?
 銀狼達が魔獣を追い込んでいます」

 コックスは追い込み役に加わっている自分の魔犬から状況を知ったのでしょう。
 側に残した方の魔犬には臨戦態勢をとらせています。

「ええ、感じています。
 かなり強力な月熊の魔獣ですね。
 コックスは魔犬と一緒に私を護ってください。
 オーロラはいざと言う時の盾を御願いします」

 メイソンがまた驚きを押し殺した表情をしています。
 まだ若いのですね。
 いえ、魑魅魍魎が暗躍する王都の暮らしが、私から純真な心を奪ったのです。
 いえいえ、そうではないですね。
 生き戻る前は、周りが見えなくなるくらい、悪い意味で恋に純粋でした。
 前世の知識を持って生き戻った事で、警戒心を持ってしまったのですね。

 オーロラが私の直ぐ前を精霊と共に護ってくれています。
 メイソンが左を、戦闘侍女が右を護ってくれています。
 私達の少し前を、コックスが魔犬を率いて前衛となってくれています。
 そして一番大切な背後は、リリアンが戦闘侍女一班十騎を率いて守護してくれています。
 何かあれば直に前に出てくれます。
 もちろん他の戦闘侍女隊も円を描くように周辺を護ってくれています。

「左前から月熊魔獣がやってきます。
 ムク達が止めを刺してくれますが、いざという時に備えてください」

 私の言葉を受けて、戦闘侍女隊と第二騎士団の精鋭が左前を開けてくれます。
 私の側にいたムクと五頭の魔豺が左前に駆けだしました。
 また狩りの始まりです。
 ムク達の影響を受けているのでしょうか?
 それともムク達を心配してるからでしょうか?
 鼓動が早くなり、なんとも言えない、不安と喜びが心の奥底から湧きあがってきます。
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