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第一章

王太子ウィリアム視点

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「殿下。
 宜しいですか」

 やれやれ。
 ディランが真剣な表情で改めて発言を求めるという事は、あの事だな。

「構わん。
 なんだ」

「殿下の新たな婚約者の事でございます。
 マナーズ男爵が暗躍し、スカーレット嬢が近付くのも、殿下の婚約者が確定していないせいでございます。
 ここは早急に新たな婚約者を定めるべきでございます」

「シーモア公爵家はそれでいいのか?
 ディランはそれで構わないのか?
 グレイスの事が可愛いくないのか⁉」

 シーモア公爵が王家王国のために娘の婚約を辞退するのは忠臣の鏡だ。
 ディランが余の側近として、余にとって一番よい事を考えてくれるのも嬉しい。
 だが、もう少しグレイスの事を考えてもいいだろう!
 まあ、グレイスが刺客に狙われるのを防ぎたいという事は聞いている。
 安全な状態で養生させたいという気持ちも分かる。
 だが、余の気持ちにも配慮してくれてもいいだろう!

「シーモア公爵家は王家王国の藩屏でございます。
 王家王国の安全と安定を一番に考えなければなりません。
 私も殿下の側近でございます。
 殿下と王家王国の将来を考えて諫言しなければなりません。
 それと、殿下との婚約を辞退させていただいてから、グレイスの表情が穏やかになりました」

「何だと⁈
 余との婚約を辞退してから、グレイスが健康になったと申すのか!」

 何たることだ!
 グレイスは余の事を嫌っていたと申すのか⁈
 家のため国のため、嫌いな余との婚約を我慢していたと申すのか!

「グレイスは殿下の事を心からお慕いしておりました。
 それだけに、正妃教育に真面目に取り組み過ぎていたようでございます。
 それが心身に多大な負担となり、遂に倒れてしまったと思われます。
 グレイスは殿下の横に立つ器ではなかったのでございます。
 殿下を陰から支え、王家王国を護る才覚がなかったのでございます。
 ですが、殿下を想う気持ちに嘘偽りはありません。
 だからこその婚約辞退でございます。
 そのグレイスの気持ちを御汲み取り頂き、一日でも早く新しい婚約者をお選びください!」

 糞!
 そうまで言われたら、グレイスが健康になるまで婚約者を選ばんとは口が裂けても言えん!
 時間稼ぎにいい加減な言い訳を口にする事もできん。
 
「分かった。
 それがシーモア公爵家の総意であり、諫言だと言うのなら、聞くしかあるまい。
 だが分かっているのか。
 下手な相手を選べば、それこそ王国の屋台骨を傾けることになるぞ。
 シーモア公爵派以外から新たな婚約者を選べば、派閥争いが激化す。
 シーモア公爵派内から選んでも、シーモア公爵派が割れる可能性がある。
 今の王国の現状で、シーモア公爵家は誰を婚約者に推薦する心算だ?」
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