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第一章

王太子ウィリアム視点

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「不審な点が多過ぎます。
 純然たる貴族でしたら、正室腹と側室腹の家督争いを恐れ、側室腹の出生届を遅れて出す事もありますが、マナーズ男爵はその当時はまだ冒険者です。
 出生を隠す必要などありません」

 確かにオーウェンの言う通りだ。
 男爵位を得てから急に娘が現れるのはおかしい。
 特にグレイスが余との婚約を辞退してから近づいたのが不審過ぎる。

「確かにマナーズ男爵の行いは不審です。
 ですが言い訳ができない訳ではありません」

「どういう言い訳だ、ディラン」

「冒険者の頃は、人を人とも思わず、子供を認知しなかった。
 だが商売が成功し、爵位を得た以上、跡継ぎが欲しくなった。
 仮に今後子供が産まれたとしても、自分の死後に相続でもめる訳にはいかない。
 だから自分が健在なうちに、過去の行状を清算した。
 そういう言い訳でございます」

 確かにディランの言うような事を言われれば、それ以上の追及は難しいだろう。
 貴族家士族家にとって、家督争いによる内紛は悪夢だ。
 それ幸いと、王家王国が介入し、貴族家士族家の力を削いできた歴史がある。
 ましてマナーズ男爵家は王国一番と言われる大富豪だ。
 王家の介入を受けて、その財産を毟り取られるのは防ぎたいだろう。

「殿下。
 父が調べた範囲でも、スカーレット嬢が何処で生まれ、誰が母親か分かりません。
 王国軍の密偵を投入しましたが、未だに何の手掛かりも得られません。
 いつの間にか男爵領に連れてこられたようでございます。
 前後のマナーズ男爵家の行動ですが、商談で色々な国を行き来していた時期です。
 その内のどこかの国で、スカーレット嬢を見つけたと思われます」

「ちょっと宜しいですか?」

 アイザックが頃合を見てボルトンの報告を止めてくれた。
 正確で詳細な報告は欲しいが、これ以上ボルトンに話させると、世間話にまで行きついてしまう。
 事前に話し合っていたアイザックが止めてくれたという事は、ここまでが必要な報告なのだろう。

「ああ、構わん。
 何だ」

「ディランが気にしていた香水ですが、予想通り媚薬の成分が含まれていました」

「何だと!
 矢張り余を惑わそうとしていたのか⁉」

「しかしながら、一つ一つの成分は法に触れるようなモノではございませんでした。
 問題は組み合わせでございます」

「組み合わせが新しく、男を惑わせる力が強いという事か?」

「はい」

 なるほど。
 限りなく黒に近い灰色と言う訳だな。
 法に触れない範囲で、余を誑かして寵愛を得ようという魂胆なのだな。
 余を甘く見おって!
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