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第一章

10話

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 私は現在の体調を正直に殿下に御話ししました。
 前世の事は伏せましたが、包み隠さず本心を御話ししました。
 私が狂わんばかりに殿下を御慕いしている事も、正直に御話ししました。

 哀しみと断ち切りがたい恋慕の情に、抑えきれずに身体が震え、鼻の奥がツンと痛み、涙と鼻水が鼻の奥を流れ、塩辛い匂いが口にまで広がってしまいました。
 急いでハンカチを取りだして、これ以上無様な姿を殿下に御見せしないようにしたのですが、抑え切れない想いが嗚咽になって現れてしまい、殿下の前で醜態を重ねてしまいました。

「ああ、その、まあ、なんだ。
 急いで結論を出す事もないだろう。
 私もよく考えるが、国王陛下と王妃殿下にも相談しなければならない。
 時間をかけて養生すれば、体調が回復するかもしれない。
 そうだ、侍医の中でも特に優秀な者を差し向けよう。
 冒険者組合が献上した魔法薬の中に、いい薬があるかもしれない。
 ああ、その、だから、泣かないでくれ」

 殿下は本当に御優しい方です。
 その御優しさに思わず甘えそうになってしまいました。
 ですが、駄目なのです。
 それだけは、絶対に許されないのです。
 殿下を愛していると言うのなら、自分に恥じない行動をしなければいけません。

「殿下。
 御言葉は身が震えるほどうれしいです。
 ですが、だからこそ、婚約を解消させていただかねばなりません。
 殿下の御身と、王国の将来を想う愛と忠誠心があればこそ、婚約者の座を辞退しなければなりません。
 これが私の殿下への愛であり、シーモア公爵家の忠誠心でございます」

「殿下。
 私からも伏して御願い申し上げます。
 殿下がグレイスの事を少しでも想って下さるのでしたら、グレイスが時間をかけて安心して療養できますように、一旦は婚約を解消してやって頂けませんでしょうか」

 ずっと黙って側に控えてくださったディラン兄様が、差し出がましくない控え目なタイミングと声色で、助け船を出してくださった。
 私はこの時の殿下の表情を一生忘れないでしょう。
 心臓を一突きされたような、どうしようもない痛みに耐えるような殿下の表情は、私への確かな愛情に感じられた。

 身勝手な思い込みかもしれませんが、それでも、わずかな希望に縋りつきたい私には、残りの一生をかけてもいいくらいの価値がありました。

「分かった。
 そのつもりで国王陛下と王妃殿下には話してみるが、聞き届けて頂けるかどうかは保証できないぞ」
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