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第一章

9話

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「王太子殿下、わざわざ御足労いただいての御見舞い、ありがとうございます」

「いやいや、此方こそ遅くなって申し訳ない。
 直ぐに来たかったのだが、公務が多くてな、こんなに遅くなってしまった。
 それでどうなのだ、学園には来れそうなのか?」

「はい。
 二月近く休ませて頂いた御陰をもちまして、ようやく登校できそうでございます。
 全て殿下が色々と口添えしてくださった御陰でございます。
 父一人では、ここまでの特別待遇は無理だったと聞いております」

 眼が覚めてから二ケ月近く、ようやく体調が整いました。
 寝たきり状態を脱し、天気の良い時は庭に出て日光浴も可能になりました。
 燦々と降り注ぐ陽の光を浴びるようになって、急速に体調が回復しました。
 矢張り太陽の恵みは心身を癒してくれます。
 初夏にはまだ早いですが、陽の光が身体の奥深くまで入り、中から心身を温めて癒してくれます。

 優しい風も心を癒してくれます。
 悔恨で未だ血を流す心を、初夏の温かみとかぐわしい香りをまとった風が包み込んで、急ぐことなくゆっくりと癒してくれるのです。
 御陰で悪夢にうなされる事もなくなりました。
 学園に行くことができるくらいには、心身が癒されました。

 とはいっても、一人では危険という事で、リリアンが付き添ってくれることになりました。
 貴族士族しか入学できない学園です。
 侍女が私に付き添うというような特例は、シーモア公爵家といえども認めてはもらえませんでした。

 そこで父上は、リリアンを騎士に叙勲したのです。
 父上の形振り構わない行動に、学園側が折れてくれたようです。
 私とリリアンを同じクラスにしてくれました。
 車椅子の使用も認めてくれました。
 これには生徒会長である王太子殿下の口添えもあったと聞いております。

「なあに、気にすることはない。
 婚約者ではなくても、事情のある生徒に配慮するのは生徒会長の務めだ。
 将来国王になった時のためにも、身体の弱い民のための施政経験になる。
 実際登校して気になる事があったら、遠慮なく言ってくれ。
 だが最初に謝っておくが、全て叶えてやれるとは限らないからな」

「もちろんでございます。
 何もかも殿下に甘える訳には参りません。
 しかしながら、殿下の将来の経験に役立つと言う事でしたら、遠慮せず感じた事を申し上げさせていただきます」

 ああ、矢張り優しい御方なのだ。
 民を思い、少しでもよい政をなされようとおられる。
 その御心が姿にも表れておられるのでしょう。
 元々背の高い御方でしたが、実際の身長以上に雄々しく見えます。
 
 御別れしたくない!
 政略による婚約だと分かっていますし、前世の間違いを繰り返してはいけないと言う事も分かっているのに、こうして間近に御姿を拝見し、親しく御言葉をかけて頂くと、御別れしなければいけないと言う決断が鈍ってしまいます。
 でも、私の口から直接御話ししなければいけない事なのです!
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