上 下
4 / 9
第一章

第4話:本当に大切なモノ

しおりを挟む
「なるほど、よく分かった。
 ボスヴィルの考え方も、クリステルの心の声も理解した。
 その上で二人に確かめておきたい事がある」

「「はい、父上」」

「まずボスヴィル、お前が一番大切にしているモノはなんだ」

「私が一番大切にしているのは貴族の誇りです」

「うむ、それはとても大切な事だな。
 では重ねて聞く、その貴族の矜持とは、爵位の低い貴族の罠に自ら嵌りに行く事なのか、それとも勝つためには爵位の低い貴族に頭を下げることができるモノなのか」

「……自分は勝つためであってもバカン伯爵に頭は下げられません」

「勝つために頭を下げられないようでは公爵家の跡継ぎにはできないと言っても、考えを変える事はできないか」

「……できません、今嘘をついてしまって、後で公爵家を危機に陥らせることになってはいけませんので、考えを変える事はできないとしか言えません」

「そうか、分かった、それでは公爵家の私の後継者失格だ。
 ボスヴィルには何か身を立てる方法を考えてやる」

「はい、申し訳ありません、父上。
 ありがとうございます、父上」

「ではクリステル、お前が一番大切にしているモノはなんだ」

「私の一番大切にしている事は……」

(命よ、命というのよ、何よりも大切なモノは命なのよ。
 地位や誇りも命があってこそよ。
 地位や誇りも死んでしまったら何の意味もないのよ。
 公爵令嬢でなくなっても命はなくならないわ。
 命がなくなったら、公爵令嬢でもなくなるのよ。
 ただの死体、骸になるだけなのよ、さあ、命だと言いなさい)

「父上、助けてください、父上、心の声が私を責めるのです。
 兄上と同じように、貴族の誇り、公爵令嬢の誇りだと言いたいのです。
 言いたいのに、心の声が言わせてくれないのです。
 心の声が私を責め立てるのです。
 私は何と答えればいいのですか。
 私はどうすればいいのですか、教えてください、父上」

「うむ、ではクリステルの心の声が何と言っているか私の教えるのだ」

★★★★★★

「そうか、クリステルの心の声が一番正しいようだ。
 何事も命があってこそだ。
 恥を忍んでも生き延びるからこそ、逆転することができる。
 最後の最後まであきらめないからこそ、戦で逆転できるのだ。
 ボスヴィルもよく聞いておくのだぞ。
 敵国の総大将が伯爵だからと言って、頭を下げれば罠に嵌めることができるのに、公爵の地位に拘って頭を下げず、謀略に失敗して国を滅ぼしたとしたら、それは王家王国を支えるべき公爵として正しい行いだろうか?
 違うであろう。
 王家を護る藩屛たる公爵家の人間ならば、相手が自分よりも地位の低い伯爵であろうと、頭を下げてでも罠に嵌めなければならぬ。
 今回も同じだぞ、ボスヴィル、クリステル。
 いや、もっと重大な危機に陥っているのかもしれないのだぞ。
 バカン伯爵は娘を使ってブルードネル王太子殿下を籠絡した。
 その下心は王国で我が家に成り代わって権力を振る事なのか、それとも後々王位を簒奪するためなのか、何も分かっていないのだ。
 この状態でバカン伯爵の仕掛けに乗るわけにはいかん。
 まずはバカン伯爵が何を企んでいるのか確かめるのだ。
 王太子を操るバカン伯爵に我が家を攻撃する口実を与えない事だ。
 分かったな」

「「はい、父上」」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

婚約者に嫌われた伯爵令嬢は努力を怠らなかった

有川カナデ
恋愛
オリヴィア・ブレイジャー伯爵令嬢は、未来の公爵夫人を夢見て日々努力を重ねていた。その努力の方向が若干捻れていた頃、最愛の婚約者の口から拒絶の言葉を聞く。 何もかもが無駄だったと嘆く彼女の前に現れた、平民のルーカス。彼の助言のもと、彼女は変わる決意をする。 諸々ご都合主義、気軽に読んでください。数話で完結予定です。

姉の厄介さは叔母譲りでしたが、嘘のようにあっさりと私の人生からいなくなりました

珠宮さくら
恋愛
イヴォンヌ・ロカンクールは、自分宛てに届いたものを勝手に開けてしまう姉に悩まされていた。 それも、イヴォンヌの婚約者からの贈り物で、それを阻止しようとする使用人たちが悪戦苦闘しているのを心配して、諦めるしかなくなっていた。 それが日常となってしまい、イヴォンヌの心が疲弊していく一方となっていたところで、そこから目まぐるしく変化していくとは思いもしなかった。

私は人形ではありません

藍田ひびき
恋愛
伯爵令嬢アリシアには誰にも逆らわず、自分の意志を示さない。そのあまりにも大人しい様子から”人形姫”と揶揄され、頭の弱い令嬢と思われていた。 そんな彼女はダンスパーティの場でクライヴ・アシュリー侯爵令息から婚約破棄を告げられる。人形姫のことだ、大人しく従うだろう――そんな予想を裏切るように、彼女は告げる。「その婚約破棄、お受けすることはできません」 ※なろうにも投稿しています。 ※ 3/7 誤字修正しました。

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。

ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。 なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。 妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。 しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。 この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。 *小説家になろう様からの転載です。

ダンスパーティーで婚約者から断罪された挙句に婚約破棄された私に、奇跡が起きた。

ねお
恋愛
 ブランス侯爵家で開催されたダンスパーティー。  そこで、クリスティーナ・ヤーロイ伯爵令嬢は、婚約者であるグスタフ・ブランス侯爵令息によって、貴族子女の出揃っている前で、身に覚えのない罪を、公開で断罪されてしまう。  「そんなこと、私はしておりません!」  そう口にしようとするも、まったく相手にされないどころか、悪の化身のごとく非難を浴びて、婚約破棄まで言い渡されてしまう。  そして、グスタフの横には小さく可憐な令嬢が歩いてきて・・・。グスタフは、その令嬢との結婚を高らかに宣言する。  そんな、クリスティーナにとって絶望しかない状況の中、一人の貴公子が、その舞台に歩み出てくるのであった。

処理中です...