上 下
22 / 53
第1章

第22話:香辛料と味噌

しおりを挟む
1年目の夏

 転生してから幸せな暮らしをさせてもらっている。
 家事は全て妖精たちがやってくれる。
 作ってくれる料理はとても美味しい。

 味噌や醤油はないが、香辛料はある。
 食文化は発展していないが、世界中に行ける妖精に集められない物はない。

 俺がエンシェントトレントに作ってもらうほどの品質は無理だけど、この世界にある食材は全て集められる。

 だから肉料理にもふんだんに香辛料が使える。
 ジャンヌの浄化魔術があるから、ホルモンにも臭みがない。
 だから絶対に香辛料が必要な訳ではないが、あった方が好きな味だ。

 特に大好きなバラベーコンに香辛料は欠かせない。
 香辛料を使って熟成させた方が美味しいと思う。

 そんな風に満足していたのと、元々塩味が好きったから、醤油や味噌を造る気にもならなかった。

 だが、ジャンヌの言葉にやる気にさせられた。

「イチロウの作ってくれるお酒があれば幸せです。
 他に何もいらないですわ」

 そんな風に言われたら、もっと美味しい物を食べさせてあげたいと思う。
 ジャンヌが1番美味しいと思う料理を見つけてあげようと思う。

 同じ人間を捨てて、虐げられている金猿獣人族を助けたジャンヌ。
 もっと幸せにしてやりたいと思う。

「大地よ、俺を助けてくれる全ての巨樹が必要とする豊かな地となれ!
 俺を助けてくれる西京みそ樹よ、最高に美味しい西京みそにしてくれ」

 俺はこれまで何も頼んだ事のない巨木にお願いしてみた。
 俺にはエンシェントトレントか普通の大木か見分ける眼力はない。
 どの木々にもお願いするしかない。

 お願いした樹はエンシェントトレントだった。
 見事に俺が思い描いた通りの西京みそを造ってくれた。
 これでジャンヌの新しい味を提供してやれる。

「大地よ、俺を助けてくれる全ての巨樹が必要とする豊かな地となれ!
 俺を助けてくれる信州みそ樹よ、最高に美味しい信州みそにしてくれ」

 俺は調子に乗って知る限りのみそを造った。
 煮たり蒸したりした大豆を始めとした材料を入れて、巨樹にお願いした。
 津軽みそ、仙台みそ、江戸赤みそ、八丁みそ、豆みそなどを発酵させてもらった。

「美味しい、こんな美味しい料理は初めて食べたわ!」

 ジャンヌが手放しでほめてくれる。

「イチロウ様、いえ、村長、これの造り方を教えてください」

「これは西京みそという。
 米の麹が20、大豆が10、塩が5で造る。
 俺なら巨樹にお願いして造れるが、妖精たちだけでも造れるようにしておこう」

 妖精たちだけでもみそが造れるように、俺の知っている事を全部教えた。
 記憶のあやふやな所は、妖精たちで試してもらう事にした。
 家事に高いプライドを持っているから、いつか美味しいみそを造ってくれる。

 だがそれは後々の事、俺が何かあった場合の話だ。
 俺が元気な間は巨樹が最高のみそを造ってくれる。
 
 その最高のみその中で1番最初に使ったのが西京みそだ。
 イノシシ型魔獣のロースを西京みそに漬けて作った西京焼きだ。
 その西京焼きに1番合うのは日本の酒、清酒だ。

 ジャンヌは辛口の清酒と西京漬けを楽しんでいる。
 1杯ごとに清酒の種類を変え、最高の組み合わせを試している。
 俺も同じように自分にとっての最高を探す。

「西京漬けに合うのは清酒だけじゃないぞ。
 ブドウの白ワインもかなり合う。
 もっと色々試した方が良い」

「本当ですか、だったらモモワインを試してみます」

 ジャンヌはそう言うと1番好きなモモワインと西京漬けを試す。
 モモワインも今では100以上の種類ができている。
 俺が食べた事のある全てのモモを思い出して巨樹に作ってもらったからだ。

「これも試してみろ、モモワインを蒸留して造ったモモブランデーだ」

 試食と試飲に付き合ってくれているヴァルタルが勧めてくれる。
 試食だけならともかく、試飲にエンシェントドワーフたちが同席しない訳がない。
 料理や給仕をしてくれる妖精は試飲しないが、他の妖精は全員試飲する。

 料理や給仕をしてくれる妖精も、最後まで料理や給仕をやる訳ではない。
 ちゃんと先に試飲した妖精と交替する。
 金猿獣人族もキンモウコウたちも美味しそうに飲み食いしている。

「これは酒精が強いな、どれくらいの度数なんだ?」

「今飲んだのは60度だが、これは70度だ」

 俺の疑問にヴァルタルが即答してくれる。

「俺はブドウの風味が強く残っている40度くらいの方が好きだな」

「そうか、儂はブドウの風味があまり残らない80度が好きだな」

 俺とヴァルタルではかなり好み違うようだ。
 強烈な酒が好きなエンシェントドワーフと、酒初心者の俺では比べられない。

「みんな自分の好きな飲み方や組み合わせを探せばいいさ。
 それを覚えておいて、給仕してくれる妖精にお願いすれば、自分にとって最高の食事をする事ができる」

「そうだな、自分にとっての最高と他人の最高は違う。
 誰に強制される事なく、自分の最高、至高の酒と究極の料理を食べるべきだ」

 ヴァルタルがご機嫌な表情で酒精の強い酒を飲み干している。
 肴にするイノシシロースの西京漬けは、少しあればいいようだ。
 キンモウコウたちは西京漬けよりも薄味の焼肉が好みのようだ。

 金猿獣人族と妖精たちは肉を好まない。
 早々に果物を肴にしてブランデーを飲んでいる。
 もう試飲試食ではなく宴会になっている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

異世界転生したら貧乳にしかモテなかった

十一屋 翠
ファンタジー
神のうっかりでトラックに跳ねられた少年は、証拠隠滅の為に異世界に転生させられる。 その際に神から詫びとして与えられたチート能力【貧乳モテ】によって、彼は貧乳にしかモテない人生を送る事となった。

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

侍と忍者の記憶を持ったまま転生した俺は、居合と忍法を組み合わせた全く新しいスキル『居合忍法』で無双し異世界で成り上がる!

空地大乃
ファンタジー
かつてサムライとニンジャという理由で仲間に裏切られ殺された男がいた。そして彼は三度目の人生で『サムジャ』という天職を授かる。しかし刀や手裏剣を持たないと役に立たないとされる二つの天職を合わせたサムジャは不遇職として扱われ皆から馬鹿にされ冷遇されることとなる。しかし彼が手にした天職はニンジャとサムライの長所のみを引き継いた最強の天職だった。サムライの居合とニンジャの忍法を合わせた究極の居合忍法でかつて自分を追放し殺した勇者や賢者の剣術や魔法を上回る刀業と忍法を手にすることとなり、これまでの不遇な人生を一変させ最強への道を突き進む。だが彼は知らなかった。かつてサムライやニンジャであった自分を殺した賢者や勇者がその後どんどんと落ちぶれていったことを。そしてその子孫が逆恨みで彼にちょっかいをかけ返り討ちにあってしまう未来が待っていることを――

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

処理中です...