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2章

28話ドルイガ視点

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 まさかこの距離で気配を悟られるとは思っていなかった。
 敵が動きたした途端、恐ろしい殺気が放たれて来た。
 正体を悟られないように逃げ出そうとしたが、逃げる時間がなかった。
 これだけ離れた距離を、一気に詰めてくるとは思っていなかった。
 しかも距離を詰めた勢いを斬馬刀に乗せて、必殺の攻撃を仕掛けてくるなど、誰が想像できただろうか!

 ミースロッド公爵家伝来の方天戟でなければ、方天戟ごと斬り殺されていただろう。
 俺以外の人虎種なら、伝家の方天戟を使っていても、斬馬刀の勢いに対応できなかっただろうし、何とか刃を合わせる事ができても、吹き飛ばされていただろう。
 その後の連撃も、ギリギリの状態で受け止めた。
 これだけの攻撃を受けたのは、家督争いで兄弟姉妹と戦った時以来だ。
 間違いなくこいつはレナードだ!

 これではっきりした!
 俺の番いはヴィヴィアンだ!
 王太子親衛騎士の中に俺の番いはいない。
 レナードがこれだけ怒り狂っていると言う事は、レナード自身が俺の番いをヴィヴィアンだと確信しているのだろう。

 何時もの俺なら、これほどの強敵と戦う事ができたら、歓喜に震えていた。
 普通の状態なら、戦う事が愉しくて仕方がなかっただろう。
 だが今は違う。
 番いの呪いに囚われてしまっているのだろう。
 レナードが憎くて仕方がない!
 ヴィヴィアンはレナードと結婚している。
 それは、つまり、俺の番いを抱いたと言う事だ! 
 絶対に許さん!
 必ず殺す!

 怒りが身体の奥底から湧きあがり、今まで使った事のない力が身体中にみなぎる!
 レナードが俺を誘うが、そんなモノに乗る俺ではない。
 逆に誘いでできる隙を利用して殺してやる。
 だがレナードも強敵だ。
 渾身の一撃を俺の方天戟に向けやがった!
 今度の攻撃を受けたら、伝家の方天戟も曲がってしまう。
 避けるのが無理なら、方天戟を犠牲にしてレナードを殺す。
 伝家の方天戟はミースロッド公爵家後継者の証だが、それでヴィヴィアンが手に入るのなら安いモノだ!

 斬馬刀を方天戟で受ける。
 人虎種特有の強靭で柔らかな筋肉を駆使して、できるだけ受け流すが、それでも方天戟が大きく曲がる。
 レナードが両手で放った渾身の斬馬刀を左外側に受け流し、方天戟から右手を放して逆撃の爪撃を放つ!
 俺の爪撃は人犀種の強靭な皮を切り裂く。
 人の造ったフルアーマープレートであろうが、下に装備したチェインメイルごと切り裂くのだ!

 これでヴィヴィアンは俺のモノだ!
 レナードを殺したら、ハント男爵家に取って返して、ヴィヴィアンを攫って領地に戻る。
 邪魔する者は、相手がヴィヴィアンの家族でも容赦しない。
 帝国獣人貴族の事も、帝国の事も、皇国の事もどうでもいい。
 ヴィヴィアンを俺のモノにする!
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