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第二章

第41話:魅了と支配に従属と呪い

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「ヴェルナー様、捕らえた者たちをどうされるのですか」

 リヒャルダの疑問はもっともだ。
 普通なら捕らえた連中を拷問にかけて黒幕を自白させる。
 まあ、今回の黒幕がインゲボー王女なのは拷問をしなくても分かっている。
 分かってはいるが、自白させない事には話にならない。
 自白させて王家から莫大な賠償金をもらうのが貴族らしいやり方だ。
 だが俺はそんな常識を無視して拷問させていない。
 その事を家臣一同疑問に思っているのだ。

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、リヒャルダ。
 あの連中には魔術をかけて絶対に逆らえないようにしておく。
 あいつらが屋敷に捕らえられている限り、王家もうかつに手をだせないから」

「ですがそれでは王家が捕らえた連中の口を封じようとしませんか。
 王家が次々と新たな刺客を放ってきたりしませんか」

「望むところだよ、実はそれが目的なんだよ。
 王家が刺客を放てば放つほど、王家の評判が地に落ちる。
 送り込まれた刺客を全員捕らえたら、証拠も証人も増えるからね」

「それは危険すぎます。
 もうヴェルナー様は公爵家の当主になられたのです。
 以前のような危険を冒す必要などありません」

「確かにその通りなんだけど、大丈夫だよ。
 今の俺の実力なら全く危険などないんだよ。
 俺はリヒャルダを残して死ぬ気はないよ。
 だから心配しないでくれ、大丈夫だから」

「それは無理です。
 心配しないでくれと申されても心配してしまいます」

 リヒャルダが苦悶の表情を浮かべて心配してくれる。
 とめどない幸福感が湧き上がってくる。
 そんな表情をずっと見ていたい気になるが、それは絶対に許されない。
 妊娠しているかもしれないリヒャルダを不安にさせる訳にはいかない。
 大賢者に聞けば妊娠しているかしていないかは直ぐに分かるのだが、聞けない。
 心の奥底にある俺の本性が確かめることを怖がっているのだ。

「ありがとう。
 そうだね、何を言われても心配は尽きないよね。
 分かったよ、証拠を見せよう。
 絶対に大丈夫だという証拠を見せるから、安心してくれていい」

 俺はこの前捕らえた刺客5人組を連れてこさせた。
 短槍使いと剣士に短双剣使いの暗殺者と魔術師に窓を割った男だ。
 直接対峙したのは4人だったが、実際には5人組だ。

「この5人が一番分かりやすいから、こいつらで証拠を見せるよ。
 この5人には魅了と支配に従属と呪いをかけてある。
 だから絶対に俺の命令には逆らわないんだ。
 自傷させてみせるし、死ぬ寸前まで戦わせる」

「確かに捕らえた者たちを支配下に置けることの証拠にはあります。
 ですが何も危険を冒して王家の襲撃を受ける必要などありません」

 これは本当に困ったな。
 法も論もなく俺の事が心配だと言われたら、何も言えなくなってしまう。
 だがここは何とか説得して不安を取り除かないといけない

「王家の刺客はこいつらと傭兵団が取り押さえてくれる。
 前回突破された窓には強力な防御魔術を展開するようにする。
 それにこいつらは何時でも王女を殺す刺客になってくれる」
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