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第2章

第34話:スライムはおもしろい

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 俺の愛竜が六頭とクランの竜が九頭、普通に考えてかなりの輸送力がある。
 その十五頭分のスライム餌、魔獣の血と内臓と雑竜を乗せて仮設住宅に行った。

 男爵への報告を優先したから寄らなかったが、通り過ぎた時に確認していた。
 タリファ王国で竜の調教をしている間に、俺の竜牧場が完成していた。
 いや、ここはもう竜牧場じゃない、砦だ、軍の砦に匹敵する強固な城館だ。

 俺の竜牧場は、リヴァーデール男爵の領都から延長する形で造られた。
 領都から更に大魔境に入った場所に造られた。
 まあ、領都とは言っても、領民百人強の猟師村なのだが。
 
 そもそも大魔境周辺の開拓村や猟師村はとんでもなく危険だ。
 基本、どんな貧しい村でも軍の野戦陣地や砦と変わらない造りになっている。
 そして、1つの拠点を確保すると、そこから少しずつ村を大きくしていく。

 俺の竜牧場も男爵領から延長する形で造られたが、独立も考慮されている。
 普通なら、今ある城壁の直ぐ外側に新たな壕と城壁を築く。
 古い時代の日本の城のように、外側に新たな曲輪や出城を造るように広げていく。

 だが俺の竜牧場は、領都の城壁からかなり離れた場所に造られた。
 俺の願い通り、男爵領の大きさの三倍も離して造られていた。
 その城とも砦とも領都とも言える竜牧場が完成していた。

 最初から独立を考慮されているとはいえ、互いに助け合う事は考えてある。
 かなり離れているが、男爵領都の壕と竜牧場の壕は繋がっている。

 遠いとはいえ横に並んだ連郭式の城になっている。
 領都と竜牧場の間にある広大な空間、壕の中にあるに手つかずになっている森は、籠城時には資源を確保できる。

 俺の竜牧場はリヴァーデール男爵の領都と同じ大きさで、今は無駄に広い。
 建っているのは、男爵のマナーハウスよりも大きな館、俺の城館、厩舎だけだ。
 周囲はほとんど全て放牧場になっていて、そこに仮設住宅がある。

 そんな城といった方が良い館には入らず、仮設住宅でスライムの世話をした。
 ずっと餌どころか水も飲めなかったスライムだ、生きているか心配だった。
 幸運と言って良いのか分からないが、全部生きていた。

 実験のために最初から餌も水も与えないつもりだった成体スライムは、一気に身体が縮んでリトルスライムの大きさになっていた。

 一気に幼体サイズからリトルスライムサイズになっていた子供達の多くは、今は大きく縮んでいたが、それでも元の魚卵サイズ以下にはなっていなかった。
 リトルスライムやベビースライムと呼べる大きさだったので安心した。

 ★★★★★★

「それで、面白い事が分かったというが、何が面白いのだ?」

「絶食させたスライムは餓死しません、縮むだけで死なないのです」

「そうか、それが面白い事なのか?」

「違います、面白のは成長速度です、餌さえあれば一日で幼体から成体になる。
 その成体スライムが、飢餓状態にはリトルスライムまで縮むのです。
 まだ実験中ですが、もしかしたらベビースライムまで縮むかもしれません。
 そんな生き物は他にいません、魔獣にも竜にもいません!」

「そうか、それが面白い事なのか?」

「はい、面白いです、面白くありませんか?」

「好きな事は人それぞれだが、俺には面白くない」

「そうですか、この面白さが分かち合えないのは哀しいですね」

「そんな話は同好の士とやってくれ、それよりも次の大魔境突破だ。
 以前三日の休憩で突破できると言っていたな?
 今日で三日休憩した、その気になれば明日四度目の突破ができるのか?」

「俺の愛竜達だけなら、明日大魔境を突破してタリファ王国に行ける。
 だが、今回一緒に連れて来たクランの竜達は無理だ、まだ回復していない」

「クランの竜達を連れて行くなら何日後になる」

「まだ世話を始めたばかりの竜だ、正確な事は言えない。
 しかも捨て値で売られていたような最低の竜だったのだ、はっきり言えん」

「クランでの話は聞いている、カーツ殿でなければ十分な世話はできないのか?」

「そんな事はない、竜の世話をした事がある者なら大丈夫だ。
 ただ、大魔境を突破するために俺の竜の群れに入っている。
 六頭の誰かがいないと後を追いかけてくる」

「どうしても明日突破してもらうと言ったらどうする?」

「そうだな、序列五位のアンズを残して突破するが、何を言われても、どれだけ引き止められても、四日後にはこちらに戻って来る。
 アンズに何かあったら、誰が相手であろうと復讐する」

「カーツ殿の竜好きは分かっている、そんな事は絶対にしない。
 少なくとも、大魔境突破のノウハウを手に入れるまではな」

「正直だな」

「こんな簡単な事、言わなくても分かっているだろう?」

「ああ、分かっている、全てを明らかにしたら、いつ殺されるか分からん」

「どう対策するつもりだ、むざむざ死ぬ気はないのだろう?」

「ほう、国よりも俺を心配してくれるのか?」

「王命が下れば別だが、そうでなければ心配する」

「そうか、ありがとう、そうだな、俺からの希望を国に伝えてくれ」

「なんだ、何でも言ってくれ、俺の足を引っ張らない希望なら伝えてやる」

「それでは何でもとは言わん、まあ、いい、当然の事だ。
 この国の竜で突破できるか試さないのかと聞いてくれ。
 肉に潰されても可笑しくないタリファ王国の屑竜で突破できたのだ。
 直ぐにアルへシラス王国の竜で試そうとしないのは何故だ?
 アルへシラス王国の竜がタリファ王国よりも劣るか?
 それとも首脳陣が無能なのか、教えて欲しいとな」

「正面から喧嘩を売る気だな、他の国に行く気か?」

「国王陛下と首脳陣しだいでは見切りをつける、むざむざ殺される気はない」

「分かった、今の話をそのまま伝える」

 俺は自分から喧嘩を売るような態度を取った。
 いいかげん受け身でいるのが腹立たしくなったのだ。
 こちらから動いた方が主導権が取れて望む方法に導ける。

 腹を立てた国王と首脳陣が俺の始末を決断しても構わない。
 新たに分かったスライムの能力を使えば、この国を滅ぼすのも簡単だ。
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