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第2章

第31話:命令と反抗

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 俺はタリファ王国に再々入国してから竜の世話に専念した。
 小さく弱く歳を取った竜が多く、能力的にはとても低い竜だ。
 だが、俺が命を預かるのだ、最良のコンディションにする責任がある!

「いいか、まずはしっかりと食べさせることが大切だ、
 食べて体力をつけさせないと調教もできない。
 調教以前に怪我を治す事すらできない。
 怪我の治っていない状態の竜に乗って戦いたいか?」

「「「「「戦いたくありません!」」」」」

「そうだ、どんな竜であろうと、自分が騎乗して戦うのだと考えて世話をするんだ。
 今この状態で攻撃を受けたら、この竜に乗って戦うのだぞ!
 今自分の手元にある武器や金しか使う物がない状態で、どうすれば良いのか。
 どうすれば生き残って栄光をつかめるか、常に考えながら生きるんだ」

「「「「「はい、常に考えて生きます!」」」」」

「俺達の最大の武器は考える力で、次が竜だ、自分の身体ではなく竜だ、忘れるな」

「「「「「はい、忘れません、最大の力は竜です!」」」」」

 五日間しっかりと竜達の御世話をした。
 もちろん、寅さん達が一番可愛いので、最優先は彼らだ。
 寅さん達に従わせる群の一員として、クランの竜を可愛がった。

 クランメンバーには惜しみなく知識を与えた。
 最悪の場合は、小さく弱く年老いた竜で大魔境を突破させられるかもしれない。
 クランメンバーもその恐れがある事を知っているのだろう、真剣に聞き実行する。

 竜が好む獲物を狙った狩りをして、その肉に薬草を入れて食べさせる。
 ブラッシングではないが、鱗と皮の状態を確認しながら皮膚の手入れしてやる。
 必要なら脂を塗り込んで皮と鱗の再生を催す。

 竜の中でも人が家畜化した益竜は、群れをつくる種族が大半だ。
 だからこそ人に従ってくれるのだが、人以上に強い竜に従う傾向がある。
 餌を確保し強い敵から守ってくれる、ボス竜に従う習性があるのだ。
 
 その習性を利用して、クランの竜を寅さんの群れに入れた。
 寅さんの命令に絶対服従するようになってから、口を開けさせて歯の確認をした。
 多くの竜の歯は何度でも生え変わるのだが、たまに生え変わらない個体もいる。

 食べ物は丸呑みで、歯がなくても消化吸収への影響は少ない。
 だが、敵と戦う時には歯の有無が生死を分ける事がある。
 だからしっかり点検して、必要なら義歯を作って接着してやる。

「カーツ殿、ギルドマスターから今いる竜で大魔境を突破しろと指示が来ました」

 サブクランリーダーが伝書鳩の手紙を確認して言う。
 嘘をついていない証拠を見せるためか、鳩の足に付けられた小箱で運ばれてきた、小さな手紙を俺に見せる。

「突破は最短でも今日から二十日、回復が遅れるようなら四十日後になる」

「カーツ殿、これは軍令です、逆らったらただではすみません」

「形だけとはいえ、この作戦の責任者は俺だ。
 失敗すると分かっていて、作戦の決行はできない」

「しかしそれではカーツ殿が処罰されてしまいます」

「真実を誤魔化して国王陛下を騙したから、俺が処罰されるだろう、違うか?」

「何を言っておられるのですか?
 まともな竜を買えなかった私の責任だと言っておられるのですか?」

「もう少し広く周りを見ろ、上司の失敗にも目を配れ、さもないと生贄にされるぞ。
 今回満足な竜を買えなかったのは、ギルドマスターの見積もりが甘かったからだ。
 キッチリとした命令与えずに、次にする事を臭わせてサブに竜を買わせたのは、何かあったらお前達に責任を擦り付けるためだ。
 奴の無能と身勝手の為に、大魔境の突破に失敗して死ぬ気はない」

「失敗の原因がギルドマスターだったとしても、ギルドマスターの責任だったとしても、それが国王陛下に伝わらなければカーツ殿の失敗になってしまいます。
 さっき言っていたのは、その事ですよね?
 しかしそれならまだ言い訳ができますし、厳罰は回避できます。
 ですが命令違反となれば、問答無用で厳罰に処せられてしまいます。
 下手をすれば処刑されてしまいます、命令に従ってください」

「罰せられるくらいなら逃げるだけだ。
 何が哀しくて、卑怯で下劣で無能な奴のために死ななくてはならない。
 寅さん達がいてくれたら、どこに行っても楽々生きて行ける。
 今なら十二頭の駄竜と乗竜もついて来てくれる、糞な国に残る義理はない」

「そんな事をされたら命懸けで止めなければいけなくなります、止めてください!」

「本気で止められると思っているのか?
 全クランメンバーが束になってかかって来ても、寅さん一頭にも勝てないぞ?
 そんなに竜に喰われて死にたいのか?」

「死にたくはありません、ありませんが、命令に背いたら家族が……」

「困った奴だ、アルへシラス王国の権力関係に詳しい者はいるか?
 冒険者ギルドのマスターと敵対している権力者を知らないか?」

「私が知っています、失脚した侯爵派が敵対していました。
 今は力を失っていますが、復権の機会を伺っています。
 船が来た時に手紙を渡して、マスターの横暴と失敗を知らせますか?」

 色仕掛けの女性騎士候補が勢い込んで言う。
 他にも八人ほど同意の表情をしている騎士候補がいる。
 だが、一度王の逆鱗に触れた奴らと手を組むのは危険過ぎる。

「いや、侯爵派と手を組む気はない。
 俺を恨んでいる奴と手を組んでも、何時裏切られるか分からない。
 最悪の場合は、背中から刺されて死ぬ事になる」

「だったらどうされるのですか、本当に逃げてしまわれるのですか?」

「生きてさえいれば何度でもやり直せる、だからまず生き残る術を確保する。
 何時でも逃げられる準備をしておいて、最善を尽くすのだ、覚えておけ。
 その上で聞く、ギルドマスターに出世争いのライバルはいないのか?
 同じ派閥だからと言って味方とは限らないのだぞ」

「知っています、マスターの競争相手を知っています」

「そうか、そいつにマスターの失策を知らせろ、王を騙した事を伝えろ」

「分かりました、直ぐに伝えます!」

「他にいないか、マスターの競争相手を知らないか?」

「「「「「……」」」」」

「だったら次は中立派だ、中立派だから出世に興味が無いとは限らない。
 中立を装いつつ出世の機会を伺っている者もいる。
 そんな奴を知らないか、知っている者に工作を任せるぞ」

「「「「「知っています!」」」」」
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