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第一章

第8話:宝石売買

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「不作になっても民を飢えさせないために、隣国から食糧を買って備蓄しようと思っているのですが、信頼できる商人を御存じではありませんか?
 いえ、もちろん我が家にも出入りの商人はいるのですが、できれば仲のよい方々と神から与えられた祝福を分かち合いたいと思っているのです」

 舞踏会で貴族令嬢や貴族夫人から噂を集めましたが、先ほど話していたロスリン伯爵家のハイディ夫人のような方は少なく、多くの令嬢や夫人が本来秘匿すべき情報を簡単に話してくれました。
 お陰で、私が当初貴族派の取りまとめに動いてもらう心算だったスカーバラ伯爵が、少々強引過ぎて信望がない事が分かりました。
 もちろん確認しなければいけませんが、たぶん間違いないでしょう。

「まあ、そうでございましたの、それはとてもありがたい事ですわ」

 利をちらつかせて話を聞いてみると、多くの貴族と騎士が困窮しているようです。
 分不相応の贅沢をしている家は自業自得ですが、多くの家が王家や隣国に備えるために、仕方なく軍備を増強して困窮しているのです。
 多くの貴族や騎士は領内の作物の実りを売って現金に換えています。
 軍備のために食糧を売り過ぎれば、領民が飢えるのはもちろん、戦争が始まった時の兵糧が不足してしまいます。

「武器や農具を売ってくださる家にも、宝石で代金を支払わせていただきますが、宝石を換金できなければ困られますよね。
 できるだけ高く宝石を買い取ってくださる商人がいれば、その代金で皆様の領内の産物を買い取る事もできるのですが……」

 宝石を買いたい商人が多ければ多いほど、談合して買い叩くことが難しくなる。
 商人が競い合ってくれれば、宝石の販売価格が高くなる。
 そうなれば、我がアリスナ辺境伯家の財力が強化される。
 ただ、間違っても味方である貴族派を潰すことになってはいけない。
 愚かな当主や夫人が宝石欲しさに武具や兵糧を売り払っては大変だ。
 そのような愚行は、王家や王家派や隣国に演じてもらいたい。

「それなら領内の商人をこちらに呼び寄せましょう。
 アリスナ辺境伯が発見された鉱山から産出する、素敵な宝石を買えるかどうかは分かりませんが、数がいれば競売も華やかになる事でしょう」

 流石にやり手のハイディ夫人です。
 最良のタイミングで領内商人の派遣を約束してくれました。
 これでこの舞踏会の来ているほとんどの貴族夫人と貴族令嬢も、自分が懇意にしている領内商人をこの城に呼び寄せてくれるでしょう。
 後はどうやって王家と王家派貴族の御用商人を呼び集めるかですが……
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