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第六章

第86話:信じる

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「ブラウンロ殿、一族の大恩人が六つ子だと言っているんだ。
 ここは信じようではないか」

 オーク族のデイヴィッド大族長が、こんな胡散臭い話を信じようとコボルト族のブラウンロ大族長に話してくれる。
 自分がとっさについてしまった嘘が恥ずかしくて仕方がない。
 さっき分身魔術とブラウンロ大族長が口にしていたのだ。
 それに乗っかって分身魔術と言えばよかったのだ。
 
 だがそれでは俺が大魔境に行かなければいけなくなる。
 自分でも情けないと分かっているのだが、どうしてもミュンの側から離れる気になれないのだ。
 恋とはこんなにも人を弱くしてしまうモノなのだな。
 それともこれは恋ではなく依存なのだろう。

「今日は助かったよ、アルファさん、ベータさん、ガンマさん。
 俺達の事を心配して訪ねて来てくれたんだって。
 俺達にはこんな運のいい偶然はなかったよ。
 本来なら心からのお礼と歓待をしたいところなんだが、俺達もコボルト族も集落を純血竜に破壊されちまって宿なしなんだ。
 ジェイコブ殿に御礼として渡す約束になっていた魔石や魔晶石も、生き残るために全部魔力を使ってしまっている。
 もし魔石や魔晶石の回収に来てくれたのなら、申し訳ないな」

オーク族最強の戦士、ビリルギルド殿が深々と頭を下げてくれる。

「そうか、そうだった、申し訳ない。
 俺達コボルト族も魔石と魔晶石を全部使ってしまっている。
 命の恩人である貴男方に対して、話が疑わしいとか言える立場じゃなかった。
 約束の魔石と魔晶石約束を渡せなくなったこと、この通り謝らせてもらう」

 確かに魔石や魔晶石は欲しい。
 だが今ならどうとでもなる。
 三体の古代竜級ドッペルゲンガーが無双してくれたので、魔力を使ってしまった状態ではあるが、魔石も魔晶石も魔宝石も莫大な数がある。
 魔力を使いきった状態でも、魔石、魔晶石、魔宝石を圧縮強化して古代竜級ドッペルゲンガー魔晶石を創り出すことができる。

「魔力を使いきった状態でも構わない。
 こちらで魔力を補充して使うことができる。
 魔力が空になった魔石や魔晶石は残してあるのか」

「ああ、それは残してある。
 ちゃんと渡す約束を守ると心算だったと証明するために、残してある。
 だが本当に空になった魔石や魔晶石でいいのか」

「利息代わりだと思ってくれ。
 魔力がなければ俺達の魔力を補充して使うことになるから、正当な報酬とは言えないが、この状態で魔石や魔晶石を寄こせとはとても言えないからな」

 本当は支払いを免除してもいいのだが、コボルト族もオーク族も支払う気でいるから、そのまま素直に受取った方が彼らの誇りを傷つけない。
 だがその代わりできる限るの支援をしようではないか。
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