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第六章

第85話:六つ子かよ

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 とてつもなく嫌な予感がしたが、憶病者にはよくあることだった。
 だが今回はその予感が的中してしまった。
 急いで古竜の群れの向かわせた一体目が発見したのは、コボルト族とオーク族のとても大きな群れだった。

 理由は全く分からないが、コボルト族とオーク族が力を合わせていた。
 最強の戦士達が後方を護って時間稼ぎをしようとしていた。
 若い戦士達が命を捨てて先方を受け持ち、撤退路を確保しようとしていた。
 この状況を見ては駆け引きなどできない。
 自分で駆けつける事はできないが、それ以外の事でやれることは全部やる。

 俺は二体目と三体目を転移させた。
 二体目にはコボルト族オーク族連合の撤退路に立ちふさがる、有象無象の亜竜や魔獣を皆殺しにさせた。
 三体目にはコボルト族オーク族連合に範囲完全回復魔術をかけさせた。
 一体目は古竜の群れ突っ込ませた。

 一瞬の出来事だったので、二体目と三体目の姿形をいじるのを忘れていた。
 俺と全く同じ姿形の人間が一度に三人も現れて、信じられない力を発揮してコボルト族オーク族連合を助けたのだ。
 だが流石に一体目だけで古竜の群れを瞬殺する事はできない。
 範囲完全回復魔術を放った三体目は、即座に一体目に協力をさせた。

「貴男はジェイコブ殿なのか、その姿はいったいどういう事だ。
 まさか分身の魔術でも使っているのか。
 それとも神や悪魔の手先なのか」

 コボルト族の大族長ブラウンロから厳しい質問が飛ぶ。
 とっさに愚にもつかない嘘を一体目に言わせてしまった。
 十分準備した事なら何とかなるが、意表を突かれると失敗してしまう。
 そんな失敗をここ最近よくやってしまう。
 ミュンに惹かれてからの俺は、ボロボロと仮面が剥がれてしまっている。

「俺はジェイコブの兄アルファだ。
 ジェイコブに頼まれてコボルト族とオーク族の安否を確かめに来た。
 よくぞ無事でいてくれた。
 そこにいるのは弟のベータとガンマだ」

「兄弟というのか、だが兄弟にしてもあまりに似すぎているのではないか」

 不味い、完全に疑われている。

「俺達は六つ子なんだ、服装に隠れている場所に多少の違いはあるが、顔は瓜六つに生まれついている。
 それに兄弟でなければ同じようにこれだけ強いわけがないだろう。
 何が似ているかと言われれば、顔形よりも魔力が似ているのだ」

「六つ子だと、我々コボルト族やオーク族なら六つ子というのもあるだろう。
 だが人族で六つ子など聞いた事がないぞ」

 困ったな、俺がいい加減な事を言ったせいではあるが、完全に疑われている。

「両親の魔力実験の所為だ。
 両親が魔力の実権を繰りかえしたせいで、魔力の強い六つ子が生まれたんだ」

 ああ、ああ、ああ、もう支離滅裂だ。
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