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第六章

第79話:救援依頼

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 ミュンが何か聞きたそうにしている。
 何か心配事があるようだ。
 これ以上ミュンに心身の負担をかける訳にはいかない。
 俺の身勝手な正義感を押し付けて孤児達の面倒を見させているのだ。
 今このような状況になって、自分がとても身勝手だったと思い知った。

 この世界にはこの世界の倫理観があるのだから。
 ミュンが俺の倫理観に近い考え方だったのは運がよかった。
 俺の理想の人間だったのは本当に運がよかった。
 だがだからと言って俺のやった事の後始末を押し付けていいわけではない。
 本来は全部俺がやらなければいけない事なのだ。

「どうしたんだい、ミュン、何か心配事でもあるのかい」

 おれはミュンが話しやすいように言葉をかけた。

「ブルーノさん、ブルーノさんに助けて欲しいと言ってくる人はいないのですか」

 思った通りの返事が返ってきた。
 心優しいミュンがこの事態に心痛めていない訳がないのだ。
 自分の見知った人達を心配しない訳がないのだ。
 冒険者ギルド職員として暮らしていたクレイヴン城伯領はもちろん、わずかにかかわっただけのセシル城伯領のことも心配している。

「直接助けを求める者は一人もいないよ。
 この状態では助けを求めに来る事も無理だからね。
 でも俺が使い魔やドッペルゲンガーを派遣している場所が困っているのは分かっているから、できる限り手助けはしているよ」

 ミュンにいい所を見せたいから嘘を言っている訳ではない。
 俺が使い魔やドッペルゲンガーを送っている場所は、一度助けた人達がいる場所か、これから助けようと思っていた場所だ。
 当然送り込んでいた使い魔とドッペルゲンガーを使って守らせている。
 だが悪人はこのゴタゴタの最中に天罰を下して殺した。
 嫌いな人間まで助けたいとは思わないから。

 ただ大魔境から押し寄せるモンスターが強力になったので、使い魔もドッペルゲンガーも対モンスター用に強化したものを送り込んだ。
 更に消費した魔力を補給するために、補給タイプ使い魔やドッペルゲンガーを創り出して往復させていた。
 そして今では、純血竜や古竜よりも強い、人造使い竜を送っている。

「では、クレイヴン城伯領もセシル城伯領も大丈夫なのですね。
 私の故郷、ラゼル公爵領は大丈夫なのでしょうか。
 もう私の家族は誰も残っていませんが、昔馴染みは生き残っているかも……」

 ミュンの故郷がラゼル公爵領の領都だとは以前に聞いた事があった。
 だから使い魔とドッペルゲンガーを送ってあった。
 既に家族は全員死んでしまっている事も聞いていた。
 ミュンがまだ幼い頃に疫病が発生したと聞いていた。
 ラゼル公爵は慈悲深い人で、疫病で親を亡くした子供達を教会に引き取らせて、食事や教育まで与えたことも聞いていた。

「ああ、大丈夫だよ、クレイヴン城伯領もセシル城伯領もラゼル公爵領も大丈夫。
 クレイヴン城伯領とセシル城伯領は為政者があれだから、最低限の支援にとどめているけど、ラゼル公爵領は公爵が今も健在で善政を敷いているから、使い竜を数頭送り込んで護らせているから、全然心配いらないよ」
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