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第六章

第70話:理想像

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 この世界の神が言う事はもっともだと思う。
 この世界の人間はとても穢れた存在だと思う。
 いや、前世で出会った人間も穢れた存在だった。
 ほとんどすべての人間が、口にしている事と実際にやっている事が違う。
 人に厳しく自分に甘い、小汚い連中ばかりだった。

 子供の頃には唯一尊敬できた勇気ある幼馴染がいたが、長じて再会した時には、家族を養うためなら汚れ仕事もやる男になっていた。
 清濁併せ吞む度量の漢に成長したともいえるが、とても寂しかった。
 自分の汚さを棚に上げて、彼にだけ理想を求めていた。

 俺こそが心の穢れた身勝手な存在だったのに。
 そんな人間がこの世界に来て天罰の執行者を気取っていたのだ。
 質の悪い冗談以外の何物でもないな、ほんと、自分自身に反吐が出る。
 今さら反省してもやった事をなかった事にはできない。
 自分の罪を背負って生きていくしかない。

「ブルーノさん、孤児達を護ってあげてください。
 いえ、ブルーノさんの力が及ぶ限りの人を護ってあげてください。
 たとて相手が神であろうと、座して天罰を待つわけにはいきません。
 少なくとも生まれたばかりの赤ちゃんや、ここにいる子供達に罪はありません。
 穢れたモノと同じ人族に生まれたからと言って、一緒に天罰を受ける必要などないと思いませんか、ブルーノさん」

 俺はミュンの言葉に目を醒まされた。
 確かに俺やほとんどの大人は天罰を受けても仕方がない存在だ。
 だが、ミュンの言う通り、子供や赤子には何の罪もない。
 彼らまで神に黙って殺される義務などない。
 最低でも逃げる権利くらいはあるはずだ。

 いや、あの神は特別扱いを止めて弱肉強食させると言ったのだ。
 だったら俺が神を殺したとしても弱肉強食の掟に従っただけだ。
 ミュンの言葉に身体の奥底から無限の力が湧いてくるようだ。
 俺一人なら、おまけのようなこの世界の生を終わらせてもよかった。
 だが相手が神だからといって、ミュンを殺させる気にはならない。

「分かったよ、ミュン、俺の力の及ぶ限り、女子供を助けみせる。
 だからミュンは今まで通り子供達を慈しんでくれ」

「まさか、ここから出て行かれるのですか、ブルーノさん。
 私はブルーノさんにはここにいていただいて、分身を各地に派遣してもらう心算だったのです。
 神が言ったように、人間の私はとても身勝手で穢れています。
 さっきあんなに偉そうな事を言っておきながら、ブルーノさんにはずっと側にいて欲しいと願ってしまいます」

 ミュンはそう言うと、顔をクシャクシャにして泣き出した。
 矛盾した自分の言葉に心痛め苦しんでいるのだろう。
 確かに俺もそんな人間の醜さを憎んできた。
 だがその本性こそが人間であり、その本性を理性で抑えて気高く生きる者がたまにいるからこそ、人間であることを誇る事もできるのだ。

「大丈夫だよ、俺も一緒だよ。
 理想を胸に抱きつつ、理想通りに生きられずに苦しみ、それでも理想を目指し続けるのが人間なのだよ。
 だから一緒に理想の人間を目指そう、ミュン」
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