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第五章

第56話:コボルト九

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 ドッペルゲンガー達は悪辣非道な者を探していた。
 探し始めてそれほど時間が経っていないから、それほど多くの事は調べられてはいないが、経穴を突いて自供させることができるのでそれなりの情報が集まっていた。
 その情報の中には、大魔境の人型魔族を奴隷として扱っている者がいた。
 奴隷として売れない場合は、生き物を傷つけて快楽を得るモノに売っていた。
 この前天罰を下した人間を痛めつける連中以上に、人型魔族を痛めつけ犯すことに快楽を感じるモノが数多くいた。

 そんな連中に人型魔族を大量に供給できれば、前に天罰を下した腐れ外道共よりも遥かに莫大な利益を得ることができる。
 しかも同じ人間を痛めつけて犯し殺すのと違い、相手が人型魔族だから何の罪にもならないのだ。
 隠れてコソコソやる必要もないで、堂々と客を集めることができる。
 俺には絶対に許せない大罪だが、この世界の常識と感性では罪に当たらない。

 わずかな時間も迷うことなく、俺は天罰を下す決断をした。
 コボルト達は、疫病に苦しみ糞尿を垂れ流し時に血便すら流していた。
 生死の狭間で必死て生きようとしているコボルト達の姿をまざまざと思い出せる。
 治療役と看護役が不眠不休で働いでいたが、命を助けるのが精一杯で、コボルトの尊厳を護ることができないでいた。
 ただ金儲けがしたいからと、正面から戦っては勝てない人型魔族を、疫病を流行させる事で楽に捕獲しようとした。

 俺は大きくこの世界の人間の常識から足を踏み外す覚悟をした。
 これまでは、王侯貴族が平民や奴隷を殺すことに天罰を下していた。
 厳密に言えば、この世界の法では死刑になるような罪ではない。
 王侯貴族は特権階級だから、罰金や引退ですまされてしまう程度の罪だ。
 だが俺は許すことができず、平民や奴隷の立場に立って天罰を下していた。

 だが今度の人型魔族のために人間を殺すという行為は、この世界の人間社会の常識とは完全に違った俺の独善的な基準だ。
 間違いなく平民や奴隷も否定する俺だけの基準だ。
 いや、平民の冒険者や狩人は、人型魔族も狩って生活費を稼いでいる。
 それどころかオーク族やミノタウロス族の肉は美味しいとまで言っている。
 そんな世界で人型魔族の敵を討つと言っても、誰も同調してくれない。

 だからというわけではないが、天罰を下す相手は厳選した。
 単に人型魔族を狩っている、人型魔族を奴隷にしている、人型魔族を食糧にしているというだけで、この世界の人間に天罰を下すわけにはいかない。
 だから、疫病流行に加担した人間だけを拉致することにした。
 前世で禁止されている方法で猟をしたモノに罰を与えるのと同じだと、自分に言い訳して捕まえてコボルト族に引き渡した。
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