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第四章

第39話:奴隷売買二

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 本来なら意識体には見張りだけをさせる心算だった。
 天罰を下す決断は、本体である俺が行うべきだと思っていた。
 だからこそ孤児院にドッペルゲンガーを残しているのだ。
 一番安全なのは、自分は敵の攻撃を絶対に受けない場所に居て、ドッペルゲンガーに天罰を執行させる事だ。
 だがそれでは調べ損ねた事情があったりして、殺してはいけない人を殺してしまう可能性があるので、こうして現場に来ているのだ。

 意識体ドッペルゲンガーから緊急の連絡が届いた。
 遠距離に想いを届かせるには多くの魔力が必要になるから、非常事態以外では意識体から連絡させないようにしている。
 だが、被害女性が特殊な性癖を持つ客に殺されそうだとなれば、魔力を惜しんでいるわけにはいかない。
 俺の意識体だからこそ、そういう場面に出くわせば指示を仰いでくる。

「しかたがない、その女性を助けて腐れ外道を拘束しよう。
 売春宿の連中には、男が居続けすると女性に言わせるのだ。
 男は貴族の端くれのようだから、ツケがきくかもしれない。
 ツケがきかないのなら、男の持ち物を売ればいい。
 それでも駄目なら、仕方がない、売春宿の主人と関係者の経穴を突く。
 どうせ天罰対象者だから、自白させて全てを聞きだしてから激痛地獄に落とす」

 この辺は俺が甘くなってしまった事が原因なのだろう。
 最初からこういう場合には天罰を執行するという覚悟があれば、連絡に使った魔力で特殊性癖に客も売春宿の主人も関係者も殺してしまっただろう。
 以前の俺なら天罰を断行していただろうに。
 孤児達の手本になるべきだという想いが、甘さを生んでしまっている。
 孤児院にいるドッペルゲンガーと意識を共有している弊害だろう。

 昔の冷酷非情な天罰執行者に戻るべきなのか、慈愛の心を持ったうえで天罰を下す存在になるべきなのか、決断できない。
 迷いがスキを作り、スキが死につながるかもしれない。
 今本体の俺が死んでしまったら、ドッペルゲンガーがどうなるか分からない。
 消滅してくれればいいが、暴走する可能性もある。
 絶対に死ぬわけにはいかないと思えば、やる事は決まってくる。

 鉱山での被害者を、無事に家に送り届けるのに必要だと思われる意識体を、倍用意して安全を図る。
 売春宿の被害者を助けるため、非常事態に備えるため、魔力を惜しまずに転移魔術を使って瞬間移動する。
 意識体がいる場所だから、間違って岩の中に転移して死んでしまう事もない。
 意識体を本体に取り込むイメージで転移すれば、ミリ単位のずれもなく転移できるから、万が一の事故も起こらない。
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