上 下
28 / 91
第三章

第28話:孤児院の日々四・ミュン視点

しおりを挟む
「ここの孤児が我が家の家宝を盗んだのです、間違いありません」

 隣の屋敷に住む陪臣騎士の夫人が一方的にまくしたてます。
 騎士に仕える従騎士と徒士が、クランの冒険者達とにらみ合っています。
 本当に悔しいですが、これが身分差というモノです。
 身分の高いモノが、一方的に下の者から奪っていくのです。
 ブルーノさんのドッペルゲンガーの指導で作った解毒薬が、私の想像していた以上の高値で売れたのをどこかから聞いたのでしょう、それを奪う心算なのです。

「うちの子達は絶対に人のモノを盗んだりしません」

 最後は負けてお金を奪われることになっても、冤罪だけは晴らさなければ、子供達の信用が失われてしまいます。
 結局は騎士という身分を笠に理不尽にお金を奪われることになっても、誇りだけは失いません。
 ブルーノさんは信用できる領主が治める街だと言われましたが、ブルーノさんだって間違える事はあるのです。

 そもそもこの街に来た当初、領主は弟に実権を奪われていたのです
 ブルーノさんの手助けがなければ、今頃領主は死んでいた事でしょう。
 それなのに家臣を野放ししてこんな事をさせるなて、身勝手で恩知らずなのが貴族の本性というモノです。
 ブルーノさんの恩を忘れて、配下を使って金を奪おうというのかもしれません。
 ブルーノさんも、ドッペルゲンガーから全て知らされていることでしょう。
 ここの領主も死ぬことがきまりましたね。

「待て、待つのだ、それ以上の無礼は絶対に許さんぞ」

 立派な服装の老士族が真っ青な顔をしてやってきました。
 あの歳で馬を駆けさせるのは結構大変でしょう。
 その後を、立派な体格の騎士がついてきます。
 よほど慌てていたのでしょうか、鎧を一部だけ装備したおかしな格好です。

「筆頭家老様、旦那様、いい所に来てくださいました。
 ここにいる孤児盗賊団の女狐を追い込んでいたところなのですよ。
 わたくし、ご領主様のために領都の大掃除をしておりましたの。
 名門セシル城伯家の領都に孤児の巣窟など相応しくありませんものね」

「黙れ慮外者が、領主様を恩知らずの恥知らずにする心算か。
 この孤児院の持ち主は、トマスの謀叛から領主様を助けてくださった大恩人なのだぞ、それを盗賊団扱いするとは、恥知らずにもほどがあるぞ」

 筆頭家老と呼ばれた老人の後ろにいた騎士が、死人のような顔色になりました。
 筆頭家老の烈火のごとき怒りに触れて、先ほどまで勝ち誇っていた騎士夫人が激しく震えだし、目を剥き出しにしています。
 セシル城伯家の領民全員が負けたと思っていたエクセター侯爵家との争いです。
 あれほど見事な逆転劇には、大きな後ろ盾があったという噂が流れています。
 その後ろ盾である大恩人が、不幸な子供達のために運営している孤児院を盗賊団扱いして、金を奪おうとしたのです。
 どんな馬鹿でも厳罰処分になるのは分かります。

「ミュン、子供達を屋敷に入れて休んでいなさい。
 お前達もここは俺に任せて屋敷の防衛に集中しろ」

 ブルーノさんのドッペルゲンガーが現れて指示をされました。
 子供達に見せたくない事があるのですね、分かりました。

「はい、はい、はい、もう大丈夫ですよ、お昼寝していたブルーノ父さんが話をしてくれますから、安心して屋敷に入りなさい、皆もお昼寝しないとブルーノ父さんのように強くなれませんよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ノーアビリティと宣告されたけど、実は一番大事なものを 盗める能力【盗聖】だったので無双する

名無し
ファンタジー
 16歳になったら教会で良いアビリティを貰い、幼馴染たちと一緒にダンジョンを攻略する。それが子供の頃からウォールが見ていた夢だった。  だが、彼が運命の日に教会で受け取ったのはノーアビリティという現実と不名誉。幼馴染たちにも見限られたウォールは、いっそ盗賊の弟子にでもなってやろうと盗賊の隠れ家として噂されている山奥の宿舎に向かった。  そこでウォールが出会ったのは、かつて自分と同じようにノーアビリティを宣告されたものの、後になって強力なアビリティを得た者たちだった。ウォールは彼らの助力も得て、やがて最高クラスのアビリティを手にすることになる。

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました

ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。 そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった…… 失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。 その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。 ※小説家になろうにも投稿しています。

他人の人生押し付けられたけど自由に生きます

鳥類
ファンタジー
『辛い人生なんて冗談じゃ無いわ! 楽に生きたいの!』 開いた扉の向こうから聞こえた怒声、訳のわからないままに奪われた私のカード、そして押し付けられた黒いカード…。 よくわからないまま試練の多い人生を押し付けられた私が、うすらぼんやり残る前世の記憶とともに、それなりに努力しながら生きていく話。 ※注意事項※ 幼児虐待表現があります。ご不快に感じる方は開くのをおやめください。

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...