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第二章

第16話:領主回復

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 筆頭家老は苦渋の決断をしなければならない。
 判断を誤れば自分の命だけでなく、主君の命まで危険になる。
 自分では俺に勝てない事は痛いほど分かっている。
 味方を呼びたくても、その中に刺客が隠れている可能性もある。
 だが、その表情を見れば時間がないのも確かだろう。
 領主私室の防御力は強くても何か大きな代償があるのかもしれない。

「頼みます、城伯閣下を御守りください」

 本当に時間がないのか、即断即決できる男なのか、直ぐに返事を返してきた。
 一緒に領主私室に入ったが、なんだか懐かしい。
 前回ここに来てからそれほど日数は経っていないのだがな。
 ベットに寝ているウィリアムは前回会った時よりも明らかにやつれている。
 毒の影響だろう、肌の色がどす黒くところどころ赤い斑点がある。
 俺の知る限り致死性の毒だが、代謝を落として毒の影響を遅らせたのだろう。

「城伯閣下、解毒剤は手に入りませんでしたが、緩解薬は手に入りましたぞ」

 おいおいそれじゃ駄目だろ、ちゃんと解毒剤を手に入れておけよ。
 そう言いたいところだが、難しいのも分かっている。
 ここまで進行した毒を無効化するには、ダンジョン最深部でドロップされる薬が必要だが、そう簡単に手に入れられる物じゃない。
 まして毒を盛ったのがトマスで、エクセター侯爵の手先が領内に乗り込んできている状況では、薬収集に全力を注ぐ事など不可能だからな。

「まて、この毒なら俺の治癒魔法で治す事ができる。
 どうする、俺を信用するか、自分で何とかするか、直ぐに選べ。
 お前が家臣として何とかするというのなら、俺はこの足でエクセター侯爵を殺しに行くが、ウィリアムを治してくれと言うのなら、ウィリアムを治してから話し合ってエクセター侯爵への報復方法をきめる」

「治して下さい、お願いします」

 即断即決だったな、まあ、俺にウィリアムを殺す気があったらとうに殺している。
 自分の手を汚さなくても、さっきの刺客を見逃せばウィリアムを殺せていた。
 それは筆頭家老も分かっているのだろう。
 まあ、完璧な治療薬を手に入れていたら俺に頼りはしなかっただろうがな。

「分かった、全部俺に任せろ」

 まずは体内に入った毒を中和する成分を送り込まなければいけないが、俺の予測通りの成分かどうかウィリアムの血液で確認する。
 とはいえ採血する必要などなく、手首で脈をとりながら魔術で確認すればいい。
 予想通りの成分だったから、そのまま手首から中和する成分を魔術で流し込む。
 体力が極端に落ちているから、手首から塩分や糖分などの血中濃度が正常値になるように栄養も流し込む。

 血中栄養濃度が正常値になったら、内臓機能も高めて肝臓等にエネルギーを備蓄させ、毒で破壊された身体の回復に使うエネルギーを身体中に分散備蓄させる。
 急ぎの場合なら、回復魔術と栄養補給魔術を同時に行うのだが、今回は時間もあるし、この後の事も考慮して筋肉も皮下脂肪も骨も元以上に強化しておく。
 さて、そろそろ目を覚ましてもらおうか。
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