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第三章

第101話:仇討ち・アイル視点

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 ようやく仇討ちの機会がやって来た。
 リカルド王太子殿下が仇を譲ってくださった。
 いや、誤魔化すのはよそう。
 リカルド王太子殿下にとってアセリカ様は、仇討ちするほどの価値もないのだ。
 哀れで愚かな方、それがアセリカ様だ。

 リカルド王太子殿下ほどの方の婚約者に成れたというのに、あんな女を騙すしか能のない無頼に恋するなんで、何と愚かな方か。
 いや、リカルド王太子殿下が言ってくださったではないか。
 命懸けの戦場では友情を愛情と勘違いしてしまうと。
 乱暴を勇猛と間違えてしまうのだと。

 やはりアセリカ様を戦場に出したのは間違いだったのだ。
 傷つく将兵や義勇兵をその場で癒してやりたいという、アセリカ様のお言葉に折れてしまった公爵閣下や我らが悪いのだ。
 そもそもそう言わせるようにロイドが仕向けたのかもしれないのだ。
 全ては側にいた者の不明が原因で、アセリカ様が悪いわけではない。

 仇討ちの準備は万端に整えてある。
 俺達が仇討ちにこの城を離れても大丈夫なだけの訓練はできている。
 魔王軍が攻め込んできても残った者達で十分対応できる。
 そもそも大軍を率いて仇討ちをする心算などない。
 南部同盟の勢力圏奥深くに入るのだ。
 敵地侵入と暗殺に秀でた者達を選んだ少数精鋭部隊だ。

 リカルド王太子殿下がボークラーク王国、サマセット王国、フィッツロイ王国と、立て続けに海沿いの国を侵攻占領併合された。
 更に南部同盟軍の四将軍離反と盗賊化を糾弾されて、盗賊を放置するようなら民のために南部同盟諸国を侵攻占領併合すると宣言された。
 海岸線の南部同盟諸国は戦々恐々としている。

 同時に皇国が国境線に屯田兵を置いたから、その方面も緊張している。
 だがその分北西方面の山岳地帯は手薄になっている。
 ジアビン山脈を越える覚悟なら、敵に見つかることなく侵入可能だ。
 ロイドの糞野郎は南部同盟各国に更なる兵力抽出を提案したようだが、どの国も自国の防備に汲々としており、兵力抽出には応じていない。
 ロイドの糞野郎の求心力が落ちている今が好機なのだ。

 リカルド王太子殿下は占領した三王国に巨大な城を築かれてる。
 ダドリー伯爵夫人とコンラッド殿下の為の城と、カウリー伯爵夫人とバートランド殿下の為の城に、方々を護るための盾となる城だ。
 巨大で堅牢な戦城であるカウリー城とダドリー城とは違い、心から愛しているのに王妃にする事も跡継ぎにもできない方々への罪滅ぼしの城だ、さぞ絢爛豪華で壮麗な城になることだろう。

 アセリカ様がリカルド王太子殿下と共に後方で治療に専念され、ロイドの糞野郎に騙されることなく、子宝にも恵まれていたらどうなっていただろう。
 まただ、また、もうどうしようのない事を考えてしまっている。
 死んだ子の歳を数えても仕方がないと言うではないか。
 今はただフィエン公爵閣下とアセリカ様の仇を討つことだけを考えるのだ。
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