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第三章

第99話:連続侵攻・リカルド視点

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 南部同盟の援軍に注意を払いつつサマセット王国に侵攻した。
 ボークラーク王国の国境線近くから占領確保した。
 生き残りの小さな村や街は簡単だった。
 近づくだけで喜んで城門を開けて迎えてくれた。
 皆飢えて餓死寸前だった。

 問題は貴族士族の支配下にある都市や街だった。
 臆病な貴族士族が逃げてくれれば楽だった。
 だが意地を張って籠城された場所が問題だった。
 無暗に攻め込んだら何の罪もない人々を巻き込んでしまう。
 妻子を残して死にたくないから危険な事はしたくなかったが、将兵や無辜の民を無駄死にさせるわけにはいかない。

「我はフィフス王国王太子リカルドである。
 圧政に苦しむ民を解放するためにやってきた。
 我が打倒したいのは王侯貴族の義務を果たさない屑である。
 関係のない民は巻き込まれないように家に隠れているんだ」

 茶番だとは分かっていたが、理想の王太子を演じなければいけなかった。
 だが恥じる事も照れることもない。
 物心ついてからずっとやってきた事だ。
 理想の王太子を演じて各国から支援を引き出し、戦う将兵を鼓舞する。
 民が自暴自棄にならないように導く、自身が前線に出る事は許されない。
 臆病なほど慎重に後方仕事をする、それが私の生き方だった。

 前世の記憶と知識が蘇り、それを利用して力を得る事ができた。
 だがそう簡単に生き方は変えられない。
 それにどうやら前世の性格に引きずられているようだ。
 力を得たのにあれほど焦れていた最前線で戦う事が怖くて仕方がない。
 今までの自分とは違う考え方をするようになっている。
 婚約者だったアセリカに裏切られた影響だとは思わないし思いたくない。

 しかし今は勇気を振り絞って先陣をきるべきところだ。
 魔法防御を展開すれば敵の攻撃を受ける事はない。
 それが分かっていても怖くて仕方がない。
 以前はこんな臆病な性格ではなかったと思うのだが、怖くなってしまっている。
 それを恥じる事も無く、妻子の為に臆病になるのは当然だと思っている。

「殿下、密偵から連絡が届いております」

 占領した都市の内城で次の侵攻先を相談している時に、側近の一人がやってきた。
 南部同盟の動向を探らせている密偵の一人が戻ったようだ。
 このままボークラーク王国の王都を目指すのか、それとも王都を放置して援軍にやってくる南部同盟軍を迎え討つのか、決めるには情報が必要だ。

 自分の力を過信する事ができるのなら、一人でも敵援軍を壊滅させられる。
 だがどうしてもそんな気にはなれない。
 一番安全な策を選んでしまう。
 そしてそれでいいのだと思っている。

「直ぐにこの場に連れて来てくれ。
 いや、その前に栄養のつく飲み物を飲ませてやるのだ」
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