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第二章

第62話:陰謀五

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 リカルド王太子が着々と貴族討伐の準備をしていると、王都から多くの貴族が逃げだして自領の城に籠城した。
 王都を逃げ出した貴族の中には、ペンドラ国王が登用した重臣もいた。
 王都を戦場にしたくないリカルド王太子が、時間をかけて拷問を行い、直接ローザを唆そうとした貴族だけでなく、裏にいる貴族の名前も公表したのだ。
 
 貴族達は王都に残らなかった理由、いや、残れなかった理由。
 それは王都にいる自分の兵力が少なかったからだ。
 王都にいる少数の兵力では、王都に駐屯している王国第五騎士団にも勝てない。
 第五騎士団が国王に動員されなくても、リカルド王太子を心から慕う王都の自警団に、何時屋敷を襲撃されるか分からない状況になっていた。

 ペンドラ国王が登用する程度には優秀な貴族達は、今回の件に係わった貴族が一斉に領都に籠城する事で、自分達の兵力を誇示して交渉材料にしようとした。
 何時魔王軍が攻め込んでくるか分からない状況なら、罰金や降格や領地の割譲で、リカルド王太子と交渉が可能だと考えた。
 自分達の支配下にある罪のない領民を人質にできるとも思っていた。
 いや、領民に人質の価値があり交渉が可能だと思い込みたかったのだ。

 だがそれは今回の件に関してだけは甘すぎる考えだった。
 心から愛する女房子供に手出しした貴族を皆殺しにする決意は、揺るぎなかった。
 拷問で知りえた全ての貴族が、王都から領地に逃げ出した事を確認したリカルド王太子は、領主一族だけでなく領主軍や領民も皆殺しにすると宣言して軍を動かした。
 唯一領主軍と領民が生き残る術は、自分達の手で領主一族を皆殺しにした時だけだと宣言して、動員できる最大の戦力を動かした。

 各地の農民に村と農地を放棄させて主要な城に収容し、その城も自警団と最低限の徒士だけに護らせ、騎士団と徒士団を全て貴族討伐軍に振り向けた。
 婚約者と親友に裏切られた時とは、全く比較にならない兵力配置だった。
 こんな兵力の配置だと、魔王軍は易々と王都にまで侵攻できるだろう。
 全ての農村や農地が魔王軍に蹂躙されてしまう事だろう。
 復興に莫大な労力が必要だと分かっていて、それだけの損害を受ける覚悟で、リカルド王太子は兵力動員を行った。

 もっとも、どれほどの農村と農地が損害を受けようと、人命さえ失われなければ、リカルド王太子の魔術で早期に復興させる事は可能だった。
 復興するまでに必要な食糧はすでに収穫されている。
 ただ、魔境に近い場所以外の農地では、今年植えた作物を収穫する事ができなくなるかもしれないのは確かだ。
 人がいなければ、魔王軍が侵攻してこなくても、害獣によって大損害を受ける。

 多くの噂が飛び交う中で、リカルド王太子が最初に皆殺しを行うだろうと噂されていた貴族領で、領主軍と領民が領主一族に謀叛を起こした。
 領主一族を皆殺しにした領主軍と領民は、リカルド王太子に許された。
 その噂をリカルド王太子は国内はもちろん大陸中に流した。
 十日を待たずして、今回の件に加担した貴族は配下の将兵と領民に殺された。
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