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第二章

第54話:想い・アルメニック近衛騎士隊長視点

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 ようやくウェルズリー領まであと一日という場所にまで戻れた。
 皇国との開戦という最悪の状況は回避することができた。
 皇国貴族と戦うという、ある意味想定通りの事態はあったが、圧勝するという想定とは全く違う結果となった。
 リカルド王太子殿下が鍛えられた将兵が、ここまで強くなっていようとは、リカルド王太子殿下ですら考えておられなかった。

 だが、今こうして冷静に考えれば、それも当然なのかもしれない。
 人間はオークのような常識外れの筋力を持っていない。
 コボルトのような素早い動きができる訳でもない。
 ゴブリンのように、子供のような低い位置から襲いかかってくるわけでもない。
 魔猪のように、体当たりからの牙攻撃で太腿の血管を切ろうとするわけでもない。
 魔狼のように、一噛みで四肢を喰い千切ったりもしない。
 モンスター相手に戦い続けてきた歴戦の戦士には、人間の兵士など子供同然だ。

「アルメニック騎士団長殿、レイラ皇女殿下が聞きたい事があるそうです」

 騎士団長か、昔からの仲間しか分かってくれないだろうが、団長と呼ばれるよりも、近衛騎士隊長と呼ばれる方が嬉しいのだがな。
 レイラ皇女殿下は不安で仕方がないのだろうな。
 我が軍の圧倒的な強さを眼にすれば、リカルド王太子殿下が大陸制覇の野望を抱いているのではないのかと、心配になるのは当然だろう。
 だが、リカルド王太子殿下に限っては、どれほどの武力を手に入れられようと、そのような野望を抱かれることはないと断言できる。

「分かった、手が空き次第伺うと伝えてくれ」

 リカルド王太子殿下は理想主義な所がまだ残っておられるのだ。
 全ての国民を飢えさせることがないと確信できるまでは、絶対に領土を増やそうとはされない、慈愛と責任感に満ちた方なのだ。
 ウェルズリー王国を併合されたのも、国民を飢えさせない確信があればこそだ。
 そんなリカルド王太子殿下に陰で不足や不満を口にするのは、王都の屑共だけだ。
 そろそろ粛清してもいい頃合いだと思うのだが、俺ごときがリカルド王太子殿下の決められた優先順位に口出しするなどおこがましいな。

「アルメニック騎士団長殿、皇国貴族と義勇兵がもめております。
 いかがいたしましょうか」

「殺せ、皇国貴族主従を皆殺しにしろ。
 一切の手加減は無用だ、魔王軍との内通者として殺してしまえ」

「承りました」

 馬鹿な連中だ、皇国から見捨てられている事に気がついていないのか。
 それとも、あれほど何度も他の貴族が殺されているのに、実力差が分かっていないのか、どちらにしても馬鹿以外の何者でもない。
 あんな連中を監視もなしに皇国に帰したら、途中の村で暴行略奪をする事は目に見えているから、殺せるときに殺しておくべきだ。

 皇国の思惑通り、最前線ですり潰してもいいのだが、戦いの最中に逃げ出されたら味方の士気にかかわるからな。
 軍事訓練の時に主だった連中には死んでもらおう。
 さて、そろそろレイラ皇女殿下の相手をするか。
 実質人質のお飾りだが、リカルド王太子殿下の婚約者には違いないからな。
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