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第一章

第25話:公妾

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 リカルド王太子はとても複雑な心境だった。
 リカルドの部分は、未だにアセリカ嬢の裏切りから立ち直れていない。
 だが前世の部分は、女性の可愛らしさも情熱も汚さも愚かさも理解していた。
 自分では絶対にできないが、歯の浮くような言葉を繰り返さなければ、いつ浮気されるか分からない事を経験し理解していた。
 その点、生死のかかった極限を何度も経験している、ライラとローザとの関係はとても楽だったが、これにはまだ若いリカルドの部分が潔癖で拒絶反応を示していた。

「分かった、国王陛下のお考えは理解したが、私にも絶対に譲れない一線がある。
 私が一番辛い時に温もりを与えてくれたライラとローザを蔑ろにはできない。
 二人を王太子の公妾として正式に認め、生まれた子供に爵位を与える約束が欲しい、それを認めてくれるのなら、よろこんで政略結婚に応じよう」

 近衛騎士隊の一員として、王太子の背後に控えていたライラとローザは、あまりの驚きに身体を振るわせてしまった。
 これから関係を深めて、愛人として黙認してもらいたい、できれば公妾として王家と王国に認めてもらいたいと思っていたが、使者が来て諦めていたのだ。

 国王がこのタイミングでリカルド王太子に婚約話を持ってきたのは、自分達の事を叱責するためだと理解していた。
 しかも相手は、大陸で一、二を争う強国セント・ジオン皇国の皇女だという。
 民の事を何より優先するリカルド王太子なら、女性関係を整理して身綺麗にすると思って諦めていたのだ。

「殿下のお優しさは十分理解致しますが、それではセント・ジオン皇国との協力関係にヒビが入るかもしれませんが、それでも宜しいのでしょうか?」

「人の心、女性の心を踏み躙るようなモノにはなりたくない。
 ライラとローザを裏切るような人間ならば、皇女殿下の事も利用できなくなったら平気で裏切るだろう。
 私は自分を助けてくれた恩人を決して裏切らない。
 その証拠として、ライラとローザには公妾の地位を与え、生まれた子供は貴族に取立てる、その事、国王陛下はもちろんレイド―ン皇帝陛下にも正しく伝えて欲しい。
 いや、今回の件に関しては、私からも直接使者を送ろう」

 ライラとローザは喜びと感動でうち震えていた。
 アバズレと陰口を叩かれることもある女傭兵だった自分達を、恩人だと言い切ってくださり、絶対に切り捨てないと断言してもらえた。
 時に売春婦のように扱われることもあった自分達をだ。

 感動しているのはライラとローザだけでなく、警護に当たっていた他の近衛騎士も一緒だった、特に幼い頃から仕えている者には胸に響く言葉だった。
 恩人を裏切らないという言葉は、共に戦う全将兵に配慮した言葉だ。
 その感動は、国王の使者にも伝わっていた。

「承りました、リカルド王太子殿下。
 一言一句たがえることなく陛下にお伝えさせていただきます」
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