上 下
13 / 127
第一章

第13話:女騎士2・ライラ視点

しおりを挟む
「殿下、お逃げください、ここは私が支えます」

 私が決死の覚悟でそう口にした時には、その覚悟はもう不用になっていた。
 恥ずかしい事だが、既に強大な敵は皆殺しになっていた。
 殿下が急激に魔力を増大されているのは知っていたが、オークジェネラル一頭とオークチャンピオン八頭を瞬殺できるなんて、想像する奴などいるモノか。
 私だって平民傭兵から騎士に取立てられるくらいの実力者だ、人間の限界は嫌というほど理解している。

「ありがとうライラ、実際に主君のために命を差し出してくれる騎士が少ない事は、私自身がよく理解している。
 君を含めたここにいる騎士達こそ、本当の忠義の士だ」

「いえ、騎士として当然の事をしたまででございます。
 そこまでお褒め頂けると、むしろ恐縮致します」

 本当の王子というのが、ここまで気高い存在だとは思わなかった。
 傭兵として魔王軍と戦ったのは、単に褒美が高かったからで、決して理想のためなんかじゃない。
 長年の傭兵稼業で、王侯貴族の汚さは嫌というほど知っていた。
 金のために命を賭けたし、生き残るために身体も張った。
 必要なら女の武器も使って生き延びてきた。

「魔王軍を引き付けるために、王太子を名乗って目立つ動きをする。
 みんなに危険な役目を押し付けてしまうが、これも民を護るためだ。
 騎士の誇りを捨てることなく、最後まで戦い抜いて欲しい」

「「「「「おう!」」」」」

 名将に弱兵なしとはよく言ったものだ。
 殿下の騎士団には、腐った奴が一人もいない。
 農民を助けるために、平気で命を捨てて戦っている。
 いや、農民のためではなく、殿下のためなのだろうな。
 そうでなければ、ここまでやれるはずがない。
 私のような人間ですら、殿下のためなら命を捨ててもいいと思ってしまう。
 殿下に出会う前は、農民のために死のうとは思わなかったからな。

「ライラ、ローザ、頼んだぞ」

 騎士隊長が、殿下に聞こえないくらい小さな声で話しかけてくる。
 思わず苦笑を浮かべそうになってしまって、必死で抑える。
 隊長が言いたいのは、単に殿下を護れという意味じゃない。
 殿下を慰めてくれという謎かけだ。
 傭兵上がりの私とローザは、生き残るためなら女の武器も使ってきた。
 隊長はその事も知っているから、傷心の殿下を女の武器で慰めてくれという、言葉にできないお願いを込めている。

「そんな事を言われても、殿下が相手じゃあねぇ」

 ローザが困惑したように話しかけてくるが、その通りだ。
 今さら乙女を演じる気などないが、殿下が相手じゃ恥じらいが先に来る。
 私達のような血にまみれた穢れた身体を、殿下の目に晒すのはねぇ、流石に恥ずかしいんだよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

転校生はおんみょうじ!

咲間 咲良
児童書・童話
森崎花菜(もりさきはな)は、ちょっぴり人見知りで怖がりな小学五年生。 ある日、親友の友美とともに向かった公園で木の根に食べられそうになってしまう。助けてくれたのは見知らぬ少年、黒住アキト。 花菜のクラスの転校生だったアキトは赤茶色の猫・赤ニャンを従える「おんみょうじ」だという。 なりゆきでアキトとともに「鬼退治」をすることになる花菜だったが──。

病の婚約者に、聖女の妹が寄り添う事になり…私は、もう要らないと捨てられてしまいました。

coco
恋愛
病の婚約者を、献身的に看病していた私。 しかし、彼の身体がそうなったのは、私のせいだとされてしまう。 そして彼には、聖女である私の妹が寄り添う事になり…?

なんでそうなった…

kCo
ミステリー
1分で読めるショートストーリー 是非読んでみてください

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。 「俺があなたのことを姉と呼んだことがありましたか?」 そういえば……ないかも。 でも……血がつながっていなくても、姉と弟では結婚できないんじゃない? 「法改正は合法だよ」 そうね。お酒がおいしいわ。 ロゼが突然の求愛に動揺しているさ中、エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載されています。

犬猿の仲の異性の同級生がまさかMMOの嫁だったなんて!

モッフン
恋愛
俺は大木一樹、MMOをこよなく愛する高校二年生だ、最近ゲーム内で嫁ができたのだが‥まさかそんなことって‥‥そんなことって!

追放されたパーティーに戻りたい 〜俺が悪かった。どうか許してください〜

夜桜紅葉
ファンタジー
シラネは善人にも悪人にもなりたくなかった。 気まぐれに善行と悪行を繰り返すことが正しい生き方なのだと信じていた。 そういう生き方を曲げなかった結果として、冒険者パーティーを追い出されてしまったシラネは、他のパーティーを転々とした結果、元のところよりも遥かに実力が劣る居場所を見つける。 そのパーティーには、昔気まぐれで助けた元のパーティーメンバーの妹がいて…… 元のパーティーに戻りたいと願うシラネは、今のパーティーメンバーと接しながら自分自身の行動を省みる。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+、ツギクルでも掲載してます。

兵士から始まる異世界物語!〜異世界に召喚されたら記憶が無いんですが!〜勇者と気が付かれず兵士として売られてから学園に入り成り上がる物語〜

KeyBow
ファンタジー
ゲームのβテストの筈が、実は異世界召喚だった。しかし召喚時に何かの力でエラーが発生し、本来受けられる筈のサポートが無いまま生き残りを賭けた兵役が始まるのであった。自分も周りの者達も運命が捻じ曲げられる。本来とは違う成り方で兵役に就き、記憶を亡くしたまま周りの勧めがあり、魔法学園に入る事を決め、運命の出会いが有り、物語はここから始まる。

処理中です...