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87話

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 深く静かにカチュア母子暗殺計画が進んでいた。
 皇帝の子を生んだ有力虎獣人貴族の姫の一人が、実家に計ることなく、個人的に暗殺計画を進めていたのだ。
 協力するのは、幼い頃から姫の世話をしていた戦闘侍女二人と乳母だけ。
 実家が一切関係していないので、皇国の誇る密偵達も発見できなかった。

 暗殺犯は焦って動くような愚か者ではなかった。
 勝てない戦いを仕掛け、確実に手に入る公爵位と富を捨てる馬鹿ではない。
 確実に勝てる手段を手に入れるまでは、静かに後宮内での信用信頼を築いていた。
 姫一人だけではなく、二人の戦闘侍女も乳母も慎重に行動していた。

 まあ、それはこの姫に限らず、多くの妾が同じように行動していた。
 純血種の虎獣人族だけあって、つがいの呪縛については十分理解していた。
 同時に、他の純血種虎獣人族皇子の能力にも気をつけていた。
 自分の子との能力差を正確に知り、自分の子が多くの皇子に劣るようなら、危険を冒してカチュアとその子を殺しても、他の子に皇帝位が行くだけだ。

 自分と子供の命を賭けて悪事を働き、最終的は他人に利を与え、自分達は処刑されるだけなんて、笑い話にもならない。
 そんな愚かな事をするような、馬鹿な姫でもなければ、姫の間違いを諫めないほど愚かな乳母や戦闘侍女ではなかった。
 姫達の調べた範囲では、愛する子供達は、カチュア母子だけでなく、アンネ母子にも完全に劣っており、危険を冒す価値など全くなかった。

 だから、最初彼女達は、後宮内での信用信頼を勝ち取るまでにとどめていた。
 状況が一変するまでは、確実に手に入る公爵位と富を確保し、多くの皇子間で争われるであろう、王位や大公位を手に入れられるように、努力を重ねていた。
 自分の皇子皇女の実力を伸ばし、皇帝アレサンドと皇国首脳達の心証を良くしようとしていた。

 一度の出産ではなく、二度三度四度と皇帝アレサンドの子供を生めるように、よき母体であろうとした。
 自分が皇帝アレサンドに全く愛されておらず、皇室と皇国の基盤を強化する目的だけで、子供を生む役目を与えられたのだと、十分理解していた。
 だからこそ、貴族らしい冷徹な思考のできる姫は、よき母体であろうとした。

 そんな彼女に、カチュアが戦略的兵器となる魔晶石を生み出せるという情報が入って来たことで、一気に想定の基盤が変わった。
 魔晶石の破壊力によれば、カチュアが生みだした魔晶石で、カチュア母子を殺すことが可能になる。
 カチュア母子だけではなく、アンネ母子も、他の皇子達も、いや、皇帝アレサンドさえも殺せる可能性がある。
 姫達は深く静かに魔晶石の正確な情報を集め出した。
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