虐待され続けた公爵令嬢は身代わり花嫁にされました。

「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
 カチュアは返事しなかった。
 いや、返事することができなかった。
 下手に返事すれば、歯や鼻の骨が折れるほどなぐられるのだ。
 その表現も正しくはない。
 返事をしなくて殴られる。
 何をどうしようと、何もしなくても、殴る蹴るの暴行を受けるのだ。

 マクリンナット公爵家の長女カチュアは、両親から激しい虐待を受けて育った。
 とは言っても、母親は血のつながった実の母親ではない。
 今の母親は後妻で、公爵ルイスを誑かし、カチュアの実母ミレーナを毒殺して、公爵夫人の座を手に入れていた。

 そんな極悪非道なネーラが後妻に入って、カチュアが殺されずにすんでいるのは、ネーラの加虐心を満たすためだけだった。
 食事を与えずに餓えで苛み、使用人以下の乞食のような服しか与えずに使用人と共に嘲笑い、躾という言い訳の元に死ぬ直前まで暴行を繰り返していた。

 王宮などに連れて行かなければいけない場合だけ、治癒魔法で体裁を整え、屋敷に戻ればまた死の直前まで暴行を加えていた。
 無限地獄のような生活が、ネーラが後妻に入ってから続いていた。
 何度か自殺を図ったが、死ぬことも許されなかった。
 そんな虐待を、実の父親であるマクリンナット公爵ルイスは、酒を飲みながらニタニタと笑いながら見ていた。

 だがそんあ生き地獄も終わるときがやってきた。
 マクリンナット公爵家どころか、リングストン王国全体を圧迫する獣人の強国ウィントン大公国が、リングストン王国一の美女マクリンナット公爵令嬢アメリアを嫁によこせと言ってきたのだ。

 だが極悪非道なネーラが、そのような条件を受け入れるはずがなかった。
 カチュアとは真逆に、舐めるように可愛がり、好き勝手我儘放題に育てた、ネーラそっくりの極悪非道に育った実の娘、アメリアを手放すはずがなかったのだ。
 ネーラはカチュアを身代わりに送り込むことにした。
 絶対にカチュアであることを明かせないように、いや、何のしゃべれないように、舌を切り取ってしまったのだ。
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