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第一章

第66話:神出鬼没

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皇紀2223年・王歴227年・早春・野戦陣地
 
 国境に攻め込んできたアザエル教団の自称聖堂騎士団二十万兵。
 何が聖堂騎士団だ、欲に塗れた野盗集団ではないか。
 神を騙る事で強盗殺人を聖なる行いだと言い張っている腐れ外道でしかない。
 神などこの世に存在しない事は、自分の名を騙って強盗殺人を行う信徒を野放しにしている事だけで明らかだ。
 一人残らず返り討ちにしてやる。

 アザエル教団が支配下に置いている四地方との国境には、狭隘部の要所に難攻不落の要塞群を築いているから、二十万の大軍であろう突破されることはない。
 だがそれは、敵味方の心理状態が普通だという前提条件が付く。
 味方の中に俺が不利になったと思う者が居たら、逃げたり裏切ったりする。
 味方が一人でも逃げだしたら、友崩れや裏崩れが起こってしまう。
 それに百戦錬磨のカンリフ公爵なら、既に調略を行っている可能性が高い。
 俺が有利なうちは裏切らなくても、少しでも不利になったら裏切る可能性がある。

 今回俺はカンリフ公爵軍に備える為に四万の軍勢を動員している。
 ライソート騎士団とアフリマン影衆の連合軍六千には、俺が一万の軍勢を直卒して対応している。
 各地方の統治と防衛のための駐屯軍と領境の守備に二万の軍を派遣している。
 その内に一万兵をアザエル教団対策の要塞群に派遣している。

「アイザック、この軍の指揮はお前に任せる」

「危険です、侯爵閣下」

 流石アイザック、俺が何も言わなくて、俺がこれからやろうとしている事を分かってくれている。

「大丈夫だ、アイザックが影衆を率いてくれれば、何の心配もいらない」

「そのような事を申し上げているわけではありません。
 敵も百戦錬磨の影衆と騎士団です。
 閣下が密かにアザエル教団を迎え討ちに行かれる事も想定しております。
 必ず刺客を放っております。
 しかも警戒厳重な野戦陣地周辺ではなく、我らの警戒網の薄い場所にです」

「分かっている、それでも大丈夫だ。
 今回に関しては俺も本気で戦う。
 今までの様に力を百分の一に抑えたりはしない」

「……百分の一でございますか」

「そうだ、初めてアイザックにあった時にも随分と力を抑えてきたが、俺はあの日から比べても著しく成長しているのだ。
 今から二十分の一の力を出して見せる、それを感じて止めるかどうか判断しろ」

 俺はアイザックが失禁脱糞して恥をかかない程度の魔力を出した。
 前世で読み漁ったラノベにある魔力強化法を全て試して増やした魔力だ。
 魔力器官に魔力を蓄えておく方法としては、精神力で無理矢理圧縮する方法がこの世界では一般的だが、俺が大好きだったラノベでは、煮詰めるとか、折りたたむとか、真空圧縮するとかある。

 だが決定的に違う事は、俺が魔力器官自体を膀胱のように折畳めて伸び縮みできると想像して身体改造した事と、更には魔力器官の内部が亜空間で無限に魔力が蓄えられると想像したことが大きい。
 更に付け加えるのなら、魔力器官が一つではなく、チャクラや経絡経穴のように、複数あると想像したという事もある。

「分かりました、ですが直属の護衛だけはつけさせてください」

「駄目だ、下手に護衛がいると、無制限に魔力を放出した時に巻き込んでしまう。
 俺の性格はアイザックも理解しているな。
 味方がいた方が全力を出せなくて不利になる」
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