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第一章
第64話:忠義と謀略
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皇紀2222年・王歴226年・晩秋・ロスリン城
今回俺が行った提案は、皇家皇国にとって途轍もなく美味しいものだったようだ。
特に食うや食わずの状態の皇国騎士にとっては、寄親寄子の関係にある選帝侯家に泣きついて、行き場のない子弟を新たに創設される公爵家や再興される選帝侯家の家臣に召し抱えてもらいたいと必死で頼み込んでいた。
いや、最下級の皇国騎士家だけでなく、皇国貴族家も頭を下げて頼み込んでいた。
だがその決定権があるのは、全てを支援する俺で、寄親の選帝侯家じゃない。
結局はとんでもない数の皇国貴族と皇国騎士が、寄親である選帝侯家の力のなさを思い知り、母上の実家であるヴィンセント子爵邸に押しかけて陳情する事になった。
その数の多さは、毎日何人もの皇国貴族と皇国騎士が、冬前にも関わらず母方の爺様や伯父上の紹介状を持って、皇都からロスリン城に来る事でも明らかだった。
いや、皇国貴族や皇国騎士だけでなく、皇帝陛下の使者まで毎日何人も来る。
俺からも返事の使者を送ったが、その中にはエレンバラの爺様もいる。
「ハリー殿、皇帝陛下の願いを重視されるのですか、それとも皇国貴族への影響力を重視されるのですか」
母上が真剣な顔で聞いてきたが、それくらい皇国貴族の蠢動が激しい。
激しいとは言っても、戦力も経済力もない。
あるとすれば俺に与える皇国の爵位が高くする事と、有力王国貴族に対する働きかけなのだが、それが以外と影響力があったりする。
零落して首都では生活する事ができなくなり、首都から遠く離れた有力王国貴族の家に居候している皇国貴族がいるのだが、有力者に気に入られていたりするのだ。
「母上、私にとって大切なのは皇帝陛下の御意志だけです。
皇国貴族の蠢動で遠方の王国貴族と争う事になろうと、気にしません。
だから、全ての陳情は私が受けますので、こちらに来てもらって下さい。
皇国貴族や皇国士族の方に不足はおかけしませんから」
今我が領地に遠征して来られるような有力王国貴族はどこにもいない。
有力王国貴族の多くが近隣に敵対する相手を抱えている。
それを無視して遠征などしたら、戻る領地が無くなっている事すらある。
そんな事を配下の騎士達が許すはずがないのだ。
無理に強行しようとしたら、配下の騎士達に叛乱を起こされて滅ぶのがオチだ。
陳情に来た皇国貴族や皇国騎士は酒食でもてなせばいい。
役に立つなら雇うし、役に立たないなら雇わない、それだけの事だ。
「そうですか、そう言ってくださるのなら安心です。
妹も皇帝陛下とヴィンセント子爵家が代々御世話になってきたアバコーン選帝侯家に挟まれて、心労を重ねていたようですが、ハリー殿が決めてくれれば安心です」
皇帝陛下は俺の事を随分と心配してくださっているようだ。
特に俺を正式な皇国子爵に叙爵した事で、家臣の男爵令嬢を、リンスター選帝侯家の養女にしてから正室に迎えた事をとても気にしてくださっているそうだ。
同時に、そのような策謀を仕掛けたドニゴール選帝侯家とハミルトン選帝侯家を、増悪していると御聞きしている。
だからこそ、今回の還俗と降嫁を俺に有利になるように考えてくださっている。
そんな話を聞いてしまうと、この件を謀略に利用しようとしている俺は、良心が咎めてしまってとても胸が痛い。
金銭的な支援を惜しまずに、皇帝陛下の御希望を第一にやろう。
父親として、ミア皇女に相応しい婿を選びたいと望まれておられるのなら、その家に支援して爵位と領地を与えよう。
今回俺が行った提案は、皇家皇国にとって途轍もなく美味しいものだったようだ。
特に食うや食わずの状態の皇国騎士にとっては、寄親寄子の関係にある選帝侯家に泣きついて、行き場のない子弟を新たに創設される公爵家や再興される選帝侯家の家臣に召し抱えてもらいたいと必死で頼み込んでいた。
いや、最下級の皇国騎士家だけでなく、皇国貴族家も頭を下げて頼み込んでいた。
だがその決定権があるのは、全てを支援する俺で、寄親の選帝侯家じゃない。
結局はとんでもない数の皇国貴族と皇国騎士が、寄親である選帝侯家の力のなさを思い知り、母上の実家であるヴィンセント子爵邸に押しかけて陳情する事になった。
その数の多さは、毎日何人もの皇国貴族と皇国騎士が、冬前にも関わらず母方の爺様や伯父上の紹介状を持って、皇都からロスリン城に来る事でも明らかだった。
いや、皇国貴族や皇国騎士だけでなく、皇帝陛下の使者まで毎日何人も来る。
俺からも返事の使者を送ったが、その中にはエレンバラの爺様もいる。
「ハリー殿、皇帝陛下の願いを重視されるのですか、それとも皇国貴族への影響力を重視されるのですか」
母上が真剣な顔で聞いてきたが、それくらい皇国貴族の蠢動が激しい。
激しいとは言っても、戦力も経済力もない。
あるとすれば俺に与える皇国の爵位が高くする事と、有力王国貴族に対する働きかけなのだが、それが以外と影響力があったりする。
零落して首都では生活する事ができなくなり、首都から遠く離れた有力王国貴族の家に居候している皇国貴族がいるのだが、有力者に気に入られていたりするのだ。
「母上、私にとって大切なのは皇帝陛下の御意志だけです。
皇国貴族の蠢動で遠方の王国貴族と争う事になろうと、気にしません。
だから、全ての陳情は私が受けますので、こちらに来てもらって下さい。
皇国貴族や皇国士族の方に不足はおかけしませんから」
今我が領地に遠征して来られるような有力王国貴族はどこにもいない。
有力王国貴族の多くが近隣に敵対する相手を抱えている。
それを無視して遠征などしたら、戻る領地が無くなっている事すらある。
そんな事を配下の騎士達が許すはずがないのだ。
無理に強行しようとしたら、配下の騎士達に叛乱を起こされて滅ぶのがオチだ。
陳情に来た皇国貴族や皇国騎士は酒食でもてなせばいい。
役に立つなら雇うし、役に立たないなら雇わない、それだけの事だ。
「そうですか、そう言ってくださるのなら安心です。
妹も皇帝陛下とヴィンセント子爵家が代々御世話になってきたアバコーン選帝侯家に挟まれて、心労を重ねていたようですが、ハリー殿が決めてくれれば安心です」
皇帝陛下は俺の事を随分と心配してくださっているようだ。
特に俺を正式な皇国子爵に叙爵した事で、家臣の男爵令嬢を、リンスター選帝侯家の養女にしてから正室に迎えた事をとても気にしてくださっているそうだ。
同時に、そのような策謀を仕掛けたドニゴール選帝侯家とハミルトン選帝侯家を、増悪していると御聞きしている。
だからこそ、今回の還俗と降嫁を俺に有利になるように考えてくださっている。
そんな話を聞いてしまうと、この件を謀略に利用しようとしている俺は、良心が咎めてしまってとても胸が痛い。
金銭的な支援を惜しまずに、皇帝陛下の御希望を第一にやろう。
父親として、ミア皇女に相応しい婿を選びたいと望まれておられるのなら、その家に支援して爵位と領地を与えよう。
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