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第一章
第62話:懐妊
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皇紀2222年・王歴226年・晩秋・ロスリン城
「ハリー殿、妹が懐妊したそうです」
俺の私室に母上が上気した表情で入ってこられた。
叔母上が懐妊した事がよほどうれしいのだろうが、まあ、当然かな。
第四皇女の従姉妹が生まれたのが十四年前だからな。
再び皇帝陛下の寵愛があったという事だから、喜びも当然だ。
まあ、俺も皇帝陛下の叔母上に対する愛情が続くように支援した。
乏しい知識から化粧品と香水を開発したし、美味しい料理も開発した。
「それはよかったですが、これから寒さが厳しくなります。
母上に御贈りした半纏と絹布団を、叔母上にも御贈りしましょう」
俺は前世から比較的寒さには強かったが、今生は更に強くなっていた。
莫大な魔力があるから、身体を中から温めるくらい無意識にできる。
だが魔力が恐ろしく低くなっている皇家や高位の皇国貴族は、それができない。
それなりに魔力のある皇国貴族も、皇国政府の儀式に魔力を使う事になる。
だから暑さ寒さに使う魔力がないのが現状だ。
それは常に戦いに備えなければいけない王国貴族も同様だった。
「そうしてくれますか、そうしてくれれば、冬の間ずっと妹の所に皇帝陛下が御成りになられるかもしれません」
この地方も冬の間はとても寒いのだが、首都地方もとても寒い。
俺はまだ首都に行った事はないが、母上は底冷えすると言っていた。
俺が魔力で増産した綿花をたっぷりと入れた半纏を母上は冬の間ずっと着ている。
同じように増産した桑の葉で育てた蚕から紡いだ絹布団は綿花よりも少なく、まだとても貴重で、俺とイザベラが使っている一組と、母上、爺様の二組だけだ。
貴族でも麻布に藁を詰めた下布団をベッドの上に置き、上に麻布か自分が持っている一番温かい服をかけて寝ている。
「これからは毎年叔母上が懐妊されるかもしれませんね。
御身体の為には、医師を派遣した方がいいのかもしれませんが、皇家にこちらの医師を派遣するのは難しいでしょうから、魔法薬を送らせていただきます」
「そうですね、女性の御医師がいればいいのですが、今の皇家に女性の御医師を召し抱えておく余裕などありませんからね。
我が家に女性の御医師を育てる余裕があるのなら、妹達の為に育ててあげて欲しいのですが、今直ぐは無理でしょう、今回は魔法薬に頼るしかありませんね」
「分かりました、魔法薬は今日にでも作って叔母上に送らせてもらいます。
女性御医師は、叔母上の側仕えにできるように医薬と行儀作法を教えます。
ヴィンセントの爺様か伯父上の養女にすれば、皇家に仕える事もできますよね」
「ええ、確かにそれも不可能ではありませんが、それよりは親戚のキングセール男爵家の養女にした方がいいかもしれません。
キングセール男爵家は代々皇家の御医師を務めた家系ですから」
母の話しを聞いて、自分が政略に関係のない親戚縁者に無関心だと言う事を思い知り、とても反省した。
キングセール男爵家はヴィンセントの爺様の正室の実家だという。
つまり伯父上の実母の生家で、母上から見れば義母の生家にあたるのだ。
俺から見れば直接血縁関係はないのだが、この世界の基準では重要な親戚であり、政略に利用し合う間柄だった。
「分かりました、その心算で動かせていただきます」
皇族の命を預かる皇室御医師に自分の配下を送り込める。
こんな好機を見逃すようでは、弱肉強食のこの世界で生き残る事などできない。
忠誠無比の影衆を送らせてもらおうじゃないか。
「ハリー殿、妹が懐妊したそうです」
俺の私室に母上が上気した表情で入ってこられた。
叔母上が懐妊した事がよほどうれしいのだろうが、まあ、当然かな。
第四皇女の従姉妹が生まれたのが十四年前だからな。
再び皇帝陛下の寵愛があったという事だから、喜びも当然だ。
まあ、俺も皇帝陛下の叔母上に対する愛情が続くように支援した。
乏しい知識から化粧品と香水を開発したし、美味しい料理も開発した。
「それはよかったですが、これから寒さが厳しくなります。
母上に御贈りした半纏と絹布団を、叔母上にも御贈りしましょう」
俺は前世から比較的寒さには強かったが、今生は更に強くなっていた。
莫大な魔力があるから、身体を中から温めるくらい無意識にできる。
だが魔力が恐ろしく低くなっている皇家や高位の皇国貴族は、それができない。
それなりに魔力のある皇国貴族も、皇国政府の儀式に魔力を使う事になる。
だから暑さ寒さに使う魔力がないのが現状だ。
それは常に戦いに備えなければいけない王国貴族も同様だった。
「そうしてくれますか、そうしてくれれば、冬の間ずっと妹の所に皇帝陛下が御成りになられるかもしれません」
この地方も冬の間はとても寒いのだが、首都地方もとても寒い。
俺はまだ首都に行った事はないが、母上は底冷えすると言っていた。
俺が魔力で増産した綿花をたっぷりと入れた半纏を母上は冬の間ずっと着ている。
同じように増産した桑の葉で育てた蚕から紡いだ絹布団は綿花よりも少なく、まだとても貴重で、俺とイザベラが使っている一組と、母上、爺様の二組だけだ。
貴族でも麻布に藁を詰めた下布団をベッドの上に置き、上に麻布か自分が持っている一番温かい服をかけて寝ている。
「これからは毎年叔母上が懐妊されるかもしれませんね。
御身体の為には、医師を派遣した方がいいのかもしれませんが、皇家にこちらの医師を派遣するのは難しいでしょうから、魔法薬を送らせていただきます」
「そうですね、女性の御医師がいればいいのですが、今の皇家に女性の御医師を召し抱えておく余裕などありませんからね。
我が家に女性の御医師を育てる余裕があるのなら、妹達の為に育ててあげて欲しいのですが、今直ぐは無理でしょう、今回は魔法薬に頼るしかありませんね」
「分かりました、魔法薬は今日にでも作って叔母上に送らせてもらいます。
女性御医師は、叔母上の側仕えにできるように医薬と行儀作法を教えます。
ヴィンセントの爺様か伯父上の養女にすれば、皇家に仕える事もできますよね」
「ええ、確かにそれも不可能ではありませんが、それよりは親戚のキングセール男爵家の養女にした方がいいかもしれません。
キングセール男爵家は代々皇家の御医師を務めた家系ですから」
母の話しを聞いて、自分が政略に関係のない親戚縁者に無関心だと言う事を思い知り、とても反省した。
キングセール男爵家はヴィンセントの爺様の正室の実家だという。
つまり伯父上の実母の生家で、母上から見れば義母の生家にあたるのだ。
俺から見れば直接血縁関係はないのだが、この世界の基準では重要な親戚であり、政略に利用し合う間柄だった。
「分かりました、その心算で動かせていただきます」
皇族の命を預かる皇室御医師に自分の配下を送り込める。
こんな好機を見逃すようでは、弱肉強食のこの世界で生き残る事などできない。
忠誠無比の影衆を送らせてもらおうじゃないか。
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