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第一章
第26話:ロスリン城
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皇紀2217年・王歴221年・冬・ロスリン城
「ハリー殿、エクセター侯爵は何も言ってこないか」
爺様が心配そうな目をして聞いてくる。
「大丈夫だよ、皇太子殿下にあれだけ大見得を切ったのだ。
今更家臣を勝手に討ったと文句は言えないし、領地を返せとも言えない。
今回の件は商人を使って全国の貴族に逐一事情を伝えてある。
皇帝陛下の葬儀にも、皇太子殿下の即位式にも、一枚の銅貨も献金していない全国の貴族達は、後ろめたさもあってエクセター侯爵の肩は持てないさ」
「うむ、それならいいのだが、本陣にはエクセター侯爵の重臣が二人もいて、援軍も四千ほど来ていたからな、流石に本心では文句を言いたいだろう」
「それは大丈夫だ、エクセター侯爵に重臣の遺体を返そうとしたら、そのような者は家中にはいないと言われたからな。
重臣の家に遺体を帰そうとしても、同じようにそのような者はいないと言われた。
捕虜にした兵士達はその家の者だと言っているのに、主君が死んだのに仇も討たず戻って来たいと言うような兵士は、我が家には一人もいないとも言われた。
文句を言いたくても、復仇の戦争をしかけたくても、それはあまりに恥知らずな行いになるから、自分が吐いた唾は自分で呑み込むしかないのだろう」
「そうか、それならいいのだ。
ハリーが命懸けで奪った城をエクセター侯爵に返さなければいけないと思うと、とても腹立たしくてな、つい余計な心配をしてしまった」
「そんな事よりも、バルコニーから湖を見てみたらどうだ、爺様。
エレンバラ城からでは見られない絶景だぞ」
俺は爺様にプランケット湖を眺めるように勧めた。
エレンバラ男爵領からでも、領民を護るための山城からなら眺められる。
だが、本拠地であるエレンバラ城は渓谷内にあるので、眺められないのだ。
この地方がプランケット地方と呼ばれるようになった元となる広大な湖。
他の地方から来た者が海だと勘違いするくらい広大な湖で、豊かな産物を生みだしてくれるし、輸送のための水運も発達している。
「おお、そうだな、ハリー殿が実力で手に入れてくれた本家の城だ。
十分楽しまなければ罰が当たるな」
爺様がようやく心からの笑みを浮かべてくれた。
実際には、爺様の言うようにエクセター侯爵の恨みは深い。
いや、エクセター侯爵だけでなく、離宮を雑兵に囲まれて脅かされた国王や王家の廷臣達の逆恨みも深いだろう。
王家の情報を集めてくれている影衆、イシュタム族の話しでは、エクセター侯爵と連絡を取って、早期に宗教都市に移動したいと訴えているようだ。
国王とエクセター侯爵が動くのは国王が逃げだしてからだろう。
俺の領地内にいる時に俺を殺してしまったら、爺様も家臣領民も怒りに我を忘れて、間違いなく国王達を皆殺しにする。
国王達が逃げ出した後で動くのは、影衆のアフリマン族とダエーワ族だな。
正面から戦争を仕掛ける訳にはいかないから、俺を暗殺しようとするだろう。
ロスリン城は交易するのには便利な城なのだが、敵からは狙い易い場所にある。
護り易いエレンバラ城に戻るか、この城に残るか、難しい選択だな。
「そうそう、爺様に頼みたい事があったんだ」
「なんだ、まだ儂にハリー殿の役立てる事があったかな」
「はい、まだまだ爺様の知恵と経験、それに交友関係で助けていただきたいのです」
「それで、今回は何をすればいいのかな」
「四人の叔父上達に手紙を書いて欲しいのです。
私も書きますが、私からだけでは安心できないかもしれません。
爺様からも我が家に戻ってきてくれるように書いてもらいたいのです。
この状態で王家に仕えていては、よくて我が家を攻める尖兵にされます。
悪くすれば、人質にされてしまうかもしれません。
いや、あの国王なら、逆恨みで叔父上達に拷問を行いかねません」
「確かに、あの国王ならそれくらいの事はやりかねん。
直ぐに戻ってくるように手紙を書こう」
「ハリー殿、エクセター侯爵は何も言ってこないか」
爺様が心配そうな目をして聞いてくる。
「大丈夫だよ、皇太子殿下にあれだけ大見得を切ったのだ。
今更家臣を勝手に討ったと文句は言えないし、領地を返せとも言えない。
今回の件は商人を使って全国の貴族に逐一事情を伝えてある。
皇帝陛下の葬儀にも、皇太子殿下の即位式にも、一枚の銅貨も献金していない全国の貴族達は、後ろめたさもあってエクセター侯爵の肩は持てないさ」
「うむ、それならいいのだが、本陣にはエクセター侯爵の重臣が二人もいて、援軍も四千ほど来ていたからな、流石に本心では文句を言いたいだろう」
「それは大丈夫だ、エクセター侯爵に重臣の遺体を返そうとしたら、そのような者は家中にはいないと言われたからな。
重臣の家に遺体を帰そうとしても、同じようにそのような者はいないと言われた。
捕虜にした兵士達はその家の者だと言っているのに、主君が死んだのに仇も討たず戻って来たいと言うような兵士は、我が家には一人もいないとも言われた。
文句を言いたくても、復仇の戦争をしかけたくても、それはあまりに恥知らずな行いになるから、自分が吐いた唾は自分で呑み込むしかないのだろう」
「そうか、それならいいのだ。
ハリーが命懸けで奪った城をエクセター侯爵に返さなければいけないと思うと、とても腹立たしくてな、つい余計な心配をしてしまった」
「そんな事よりも、バルコニーから湖を見てみたらどうだ、爺様。
エレンバラ城からでは見られない絶景だぞ」
俺は爺様にプランケット湖を眺めるように勧めた。
エレンバラ男爵領からでも、領民を護るための山城からなら眺められる。
だが、本拠地であるエレンバラ城は渓谷内にあるので、眺められないのだ。
この地方がプランケット地方と呼ばれるようになった元となる広大な湖。
他の地方から来た者が海だと勘違いするくらい広大な湖で、豊かな産物を生みだしてくれるし、輸送のための水運も発達している。
「おお、そうだな、ハリー殿が実力で手に入れてくれた本家の城だ。
十分楽しまなければ罰が当たるな」
爺様がようやく心からの笑みを浮かべてくれた。
実際には、爺様の言うようにエクセター侯爵の恨みは深い。
いや、エクセター侯爵だけでなく、離宮を雑兵に囲まれて脅かされた国王や王家の廷臣達の逆恨みも深いだろう。
王家の情報を集めてくれている影衆、イシュタム族の話しでは、エクセター侯爵と連絡を取って、早期に宗教都市に移動したいと訴えているようだ。
国王とエクセター侯爵が動くのは国王が逃げだしてからだろう。
俺の領地内にいる時に俺を殺してしまったら、爺様も家臣領民も怒りに我を忘れて、間違いなく国王達を皆殺しにする。
国王達が逃げ出した後で動くのは、影衆のアフリマン族とダエーワ族だな。
正面から戦争を仕掛ける訳にはいかないから、俺を暗殺しようとするだろう。
ロスリン城は交易するのには便利な城なのだが、敵からは狙い易い場所にある。
護り易いエレンバラ城に戻るか、この城に残るか、難しい選択だな。
「そうそう、爺様に頼みたい事があったんだ」
「なんだ、まだ儂にハリー殿の役立てる事があったかな」
「はい、まだまだ爺様の知恵と経験、それに交友関係で助けていただきたいのです」
「それで、今回は何をすればいいのかな」
「四人の叔父上達に手紙を書いて欲しいのです。
私も書きますが、私からだけでは安心できないかもしれません。
爺様からも我が家に戻ってきてくれるように書いてもらいたいのです。
この状態で王家に仕えていては、よくて我が家を攻める尖兵にされます。
悪くすれば、人質にされてしまうかもしれません。
いや、あの国王なら、逆恨みで叔父上達に拷問を行いかねません」
「確かに、あの国王ならそれくらいの事はやりかねん。
直ぐに戻ってくるように手紙を書こう」
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