上 下
7 / 94
第一章

第6話:魔力と生産力

しおりを挟む
 皇紀2211年・王歴215年・秋・エレンバラ王国男爵領

「爺様、魔力とは不思議なものだな」

 祖父と母から話しを聞けば聞くほど、魔力の事が分からなくなった。
 科学的分析など文系の俺にできるはずもないのだが、つい気になってしまう。
 魔力で植物の成長を早くできる理由が全く分からない。
 植物なら早く成長させられるのに、動物だとできないのは何故なのだ。
 あまりにも不可解で気になって仕方がない。
 本当は色々実験して検証したいのだが、残念ながら今そんな時間はない。

「そんなことは気にするな、魔力など昔からそういうものだ。
 それよりどうする、また狩りをするのか、それとも麦を育てるか」

 祖父が期待に満ちた表情で俺を見ている。
 俺のやった事がよほど規格外で期待以上だったのだろう。
 あの時の祖父と母の驚いた顔は今でも忘れられない。
 あれ以降だ、祖父と母が俺の提案を文句なしで受け入れるようになったのは。
 実際俺もあんなことができるとは思っていなかった。
 ラノベやアニメのアイデアを試してみただけなのだが、できてしまった。

「狩りをしたとしても、それほど魔核が集まるわけではないだろ、爺様。
 魔核は狩るよりも買った方が早いのではないか」

 俺がやったのは、農作物に害を与える魔獣や魔蟲を大量に狩り、その時に得られた魔核を合成した事だ。
 ある程度の強さを持つ魔獣や魔蟲の核は魔石と呼ばれ魔力を蓄えることができる。
 蓄えられる魔力量が多ければ、魔晶石や魔宝石と呼ばれ高値で売買される。
 だが、魔力のない平民でも狩れる魔獣や魔蟲の核は、何かに利用できるほどの魔力を蓄える事ができないのだ。

 だが、何の役にも立たなくても害獣害蟲討伐の証拠にはなるので、領民を慰撫するために討伐依頼をだしていた我が家の城には、数多くの魔核があった。
 それを俺が土団子を作る感じで合成して、拳大の魔宝石を幾つも創り出したのだ。
 その価値は、我が家の年収の数十年分になったのだが、残念ながら売れなかった。
 売れば莫大な金額になるのだが、ロスリン伯爵家の手に渡ってしまったら、我が家を攻め込むときの魔力に使われてしまうからだ。

「そうだな、ほとんど価値のない魔核なら安く買えるだろう。
 だが、我が家が豊かだと思われる訳にはいかぬからな。
 我が家の代わりに産物の売買をしてくれる武装商人が必要だ。
 他人は信用できないから、信用できる者を武装商人にしなければならないが、残念ながら我が家には人がおらん」
 
 祖父の言う通りだ、我が家には人がいない。
 領民八千人程度の男爵家だと仕方がないのだが、叔父達が家を出てしまっている。
 亡命中とはいえ、王家の直臣の座を捨てて武装商人に成れとはいえ言えない。
 それに、叔父とは言え無条件に信じるわけにはいかない。
 俺を殺して男爵の爵位を手に入れたいと思うかもしれないし、王に命じられて俺を殺すしかない状況になるかもしれない。

 金の方はいいんだ、色々とやって稼いだから。
 前世の知識には色々と稼げる方法があるのだが、民を飢えさせるような、食糧を酒や石鹸に加工する方法は良心が咎めてやれなかった。
 だが、無から食料を作る椎茸の人工栽培と、食用にできない松脂などから石鹼を作ることはできたので、屑魔核を大量に買うくらいの余裕はある。
 養蚕は始めたばかりだから、まだ収入には繋がっていないが、国王に献上された綿花の種を分けてもらったから、来年には多少は金になるだろう。

「いないものはしかたがないな、爺様。
 だったら領民の夫役を使って狩りをしよう。
 狩った魔物の核は魔晶石程度にして売ろう。
 魔核に蓄えてあった魔力で稲を育てればいい、米なら高値で売れる。
 魔力を使い切った魔晶石なら、ロスリン伯爵に買われても直ぐに我が家の攻撃には使えない」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

処理中です...