上 下
11 / 11

10話

しおりを挟む
 王太子があまりにもあっさりと殺されてしまいました。
 あれだけ悪行重ね憎まれていたにもかかわらず、平気で過ごしていた方なのに、リッカルドの手にかかれば僅か一カ月で殺されてしまうのです。
 正直少々リッカルドの事が怖くなります。
 ですがそれは身勝手な考えです。
 リッカルドはアマル公爵家と私のために全力で働いてくれたのですから。

「私も弔問のために王都に行かなければいけませんか?」

「それはそうでございますが……」

「なにか心配な事でもあるのですか?」

「罠の可能性もございます」

 リッカルドの心配に私も少し不安になりました。
 確かに王太子は陰険で酷薄です。
 暗殺に失敗していれば、報復を考えている事でしょう。
 私に刺客を放った直後に襲われたとなれば、私を疑うのが普通です。
 殺せていればいいですが……

「どれだけの護衛を連れて行けばいいですか?
 王都に行くのに、あまりに多くの家臣を連れて行くわけにはいかないでしょ?」

「その通りではありますが、抜け道がございます。
 表の護衛は、この領地で腕の立つ者を選んで連れて行きます。
 影の護衛は、今開墾にいそしんでいる冒険者だった者を連れて行きます」

 リッカルドの献策通りにすれば、まず大丈夫でしょう。
 問題は私が留守の間の未開地の開墾です。
 私が聖女の力を全力で使えば開拓は容易なのですが、それを表に現すわけにはいかないのです。

 それにリッカルドが私の護衛についてくるというのです。
 他にも優秀な内臣は多いのですが、どちらかといえば文官で気が弱いのです。
 リッカルドのように、名門譜代家臣に厳しく対応するのは苦手なのです。
 だからといってリッカルドを残すわけにはいきません。
 私の身の安全が一番最優先ですから。

 王太子は本当に死んでいました。
 信じられないことですが、あの王太子が簡単に死んでしまっています。
 弔問の会場では、多くの令嬢と夫人が泣き崩れています。
 みな王太子と関係していたのでしょう
 妹のマリアも身も世もなく泣き崩れています。
 信じたくないことですが、王太子と一線を越えてしまっているのでしょう。

「御無事の帰還、お慶び申し上げます」

「ありがとう、リッカルド」

 リッカルドは王太子が生きていると、疑っていたのでしょう。
 王太子の反撃を心から心配してくれていたのでしょう。
 私もそうです。
 あの弔問の場で襲撃されなかったことで、リッカルドは安心したのでしょう。
 ですが私はまだ安心できないのです。
 王太子を殺せたと信じきれないのです。
 何とも言えない粘りのある視線を感じてしまうのです。
 私の勘違いならいいのですが……
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

薄幸の公爵令嬢は魔王の生贄にされましたが、ツンデレ魔王に溺愛されました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

とある令嬢の婚約破棄

あみにあ
恋愛
とある街で、王子と令嬢が出会いある約束を交わしました。 彼女と王子は仲睦まじく過ごしていましたが・・・ 学園に通う事になると、王子は彼女をほって他の女にかかりきりになってしまいました。 その女はなんと彼女の妹でした。 これはそんな彼女が婚約破棄から幸せになるお話です。

最後に、お願いがあります

狂乱の傀儡師
恋愛
三年間、王妃になるためだけに尽くしてきた馬鹿王子から、即位の日の直前に婚約破棄されたエマ。 彼女の最後のお願いには、国を揺るがすほどの罠が仕掛けられていた。

一度目は悪役令嬢、二度目は鍼灸師、三度目はもう一度悪役令嬢、今度は聖女に陥れられたりしません。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 マクリントック公爵家の令嬢アイリスは三度目の人生を歩んでいた。一度目は聖女ゾーイの陥れられ、婚約者のネイサン王太子に斬り殺される悲惨な人生だった。二度目の人生は、遥か未来の異国に生まれ、鍼灸師と幸せな生涯だった。三度目は、一度目と同じマクリントック公爵家の令嬢アイリスとして生を受けた。二度目の知識の影響か、秘孔術という天与のギフトを得たアイリスは、前前世の轍を踏まないように備えるのであった。

わたくし、今から義妹の婚約者を奪いにいきますの。

みこと。
恋愛
義妹レジーナの策略によって顔に大火傷を負い、王太子との婚約が成らなかったクリスティナの元に、一匹の黒ヘビが訪れる。 「オレと契約したら、アンタの姿を元に戻してやる。その代わり、アンタの魂はオレのものだ」 クリスティナはヘビの言葉に頷いた。 いま、王太子の婚約相手は義妹のレジーナ。しかしクリスティナには、どうしても王太子妃になりたい理由があった。 ヘビとの契約で肌が治ったクリスティナは、義妹の婚約相手を誘惑するため、完璧に装いを整えて夜会に乗り込む。 「わたくし、今から義妹の婚約者を奪いにいきますわ!!」 クリスティナの思惑は成功するのか。凡愚と噂の王太子は、一体誰に味方するのか。レジーナの罪は裁かれるのか。 そしてクリスティナの魂は、どうなるの? 全7話完結、ちょっぴりダークなファンタジーをお楽しみください。 ※同タイトルを他サイトにも掲載しています。

公爵令嬢は夜這いをかけてきた王太子を叩きのめして父親から勘当追放されてしましました。途中で助けた美少女はいわくがあるようです。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。公爵令嬢ブリジットは王太子ガブリエルの婚約者だった。だが王太子妃の座を狙う侯爵令嬢カサンドルにそそのかされた王太子が夜這いをかけてきたのを叩きのめして半殺しにしてしまう。当然王家から婚約は破棄され、父の公爵から勘当追放されてしまったが、むしろブリジットには望むところだった。途中で薄幸の美少女ペリーヌを助けて自由に生きようとしたのだが、王太子が追いかけてきてしまい……

一途な令嬢は悪役になり王子の幸福を望む

紫月
恋愛
似たタイトルがあったため、ご迷惑にならないよう「悪役令嬢はじめました」からタイトルを変更しました。 お気に入り登録をされてる方はご了承ください。 奇跡の血を持つ公爵令嬢、アリア・マクシミリア。 彼女はただ一途に婚約者の王太子セフィル・ブランドルを思う。 愛しているからこそ他の女性に好意を寄せるセフィルのために悪役令嬢を演じ始める。 婚約破棄をし、好きな女性と結ばれてもらうために……。

処理中です...