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第一章
第62話:母娘
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オードリーは躊躇うことなく目を覚ますことができた。
夢の中ではあるが、母親が蘇った事を理解していたから。
その母親が父親を張り飛ばして抱きしめに来てくれたと知っていたから。
安心して目を覚まして母の胸に飛び込むことができた。
胸一杯に母の匂いを感じ、胸の温もりと優しさに甘える事ができた。
「ああ、オードリー、目覚めてくれたのね。
私を信じて目覚めてくれたのね、ありがとう、オードリー」
ミネルバとオードリーは滂沱の涙を流しながら抱きしめ合った。
単にオードリーがミネルバの胸に中で甘えるだけではなかった。
ミネルバがオードリーの髪に頬を寄せて愛情を確かめる。
それを感じたオードリーが抱きしめる手の力はそのままに、ミネルバの胸から顔をあげて母親の顔をしっかりと見つめる。
互いに涙で歪んだ姿になってしまうのだが、見つめ合う心に歪みなど一切ない。
互いを想う真直ぐな愛情で一杯だ。
見つめ合うだけでは満足できないミネルバとオードリーは、今度は互いの頬を寄せて頬擦りして愛情を確かめ合う。
感極まって涙の味がする頬にキスし合うほどだった。
側で見ているフリデリカが思わず視線を下げてしまっていた。
幼い頃に両親を亡くして浮浪児同然に育ったフリデリカには、余りにも眩し過ぎる光景だったのだ。
羨ましく思ってはいけない、絶対に妬ましさを持ってはいけない、そう心を強くしなければいけないくらい、母娘二人の愛情は光り輝いていた。
「そうなの、そうだったの、可哀想に、辛かったのね。
もう大丈夫だからね、何があっても私が護ってあげますからね。
辛く哀しい事が何一つ記憶にも心にも残らないように、全部話すのです。
泣きなさい、哀しみが全部心から洗い流されるまで、思いっきり泣きなさい」
オードリーが今まであった苦しい事、哀しい事、腹立たしい事を全部話していた。
とても長い長い話を、ミネルバはさえぎることなくずっと聞いていた。
オードリーの心が晴れるまで、長い長い時間聞き続けたのだ。
側に控えるフリデリカも立ったまま黙っていた。
守護石の助けがなければとても不可能な事だった。
本人の自業自得とはいえ、父親のルーパスも可哀想だった。
家臣達の憐れむ視線を感じながら、ただひたすら外で正座していた。
自分のしでかした失敗を心に浮かべて、絶望感に苛まれながら正座していた。
次にすべきことを決める事もできず、死んで責任を取るべきなのか、大魔王への盾となるべく恥を忍んで生き延びるべきなのか、思い悩みながら正座していた。
オードリーが記憶と心に溜まった苦しみと哀しみを全て吐き出すまで、いったいどれほどの長さがかかるか分からない時間を、ひたすら正座をして過ごすのだった。
夢の中ではあるが、母親が蘇った事を理解していたから。
その母親が父親を張り飛ばして抱きしめに来てくれたと知っていたから。
安心して目を覚まして母の胸に飛び込むことができた。
胸一杯に母の匂いを感じ、胸の温もりと優しさに甘える事ができた。
「ああ、オードリー、目覚めてくれたのね。
私を信じて目覚めてくれたのね、ありがとう、オードリー」
ミネルバとオードリーは滂沱の涙を流しながら抱きしめ合った。
単にオードリーがミネルバの胸に中で甘えるだけではなかった。
ミネルバがオードリーの髪に頬を寄せて愛情を確かめる。
それを感じたオードリーが抱きしめる手の力はそのままに、ミネルバの胸から顔をあげて母親の顔をしっかりと見つめる。
互いに涙で歪んだ姿になってしまうのだが、見つめ合う心に歪みなど一切ない。
互いを想う真直ぐな愛情で一杯だ。
見つめ合うだけでは満足できないミネルバとオードリーは、今度は互いの頬を寄せて頬擦りして愛情を確かめ合う。
感極まって涙の味がする頬にキスし合うほどだった。
側で見ているフリデリカが思わず視線を下げてしまっていた。
幼い頃に両親を亡くして浮浪児同然に育ったフリデリカには、余りにも眩し過ぎる光景だったのだ。
羨ましく思ってはいけない、絶対に妬ましさを持ってはいけない、そう心を強くしなければいけないくらい、母娘二人の愛情は光り輝いていた。
「そうなの、そうだったの、可哀想に、辛かったのね。
もう大丈夫だからね、何があっても私が護ってあげますからね。
辛く哀しい事が何一つ記憶にも心にも残らないように、全部話すのです。
泣きなさい、哀しみが全部心から洗い流されるまで、思いっきり泣きなさい」
オードリーが今まであった苦しい事、哀しい事、腹立たしい事を全部話していた。
とても長い長い話を、ミネルバはさえぎることなくずっと聞いていた。
オードリーの心が晴れるまで、長い長い時間聞き続けたのだ。
側に控えるフリデリカも立ったまま黙っていた。
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自分のしでかした失敗を心に浮かべて、絶望感に苛まれながら正座していた。
次にすべきことを決める事もできず、死んで責任を取るべきなのか、大魔王への盾となるべく恥を忍んで生き延びるべきなのか、思い悩みながら正座していた。
オードリーが記憶と心に溜まった苦しみと哀しみを全て吐き出すまで、いったいどれほどの長さがかかるか分からない時間を、ひたすら正座をして過ごすのだった。
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