上 下
42 / 91
第一章

第42話:旅程14

しおりを挟む
 巨躯男が森から飛び出してきた。
 巨躯男は死んでいなかったのだ。
 全身から怒りの波動が発せられている。
 あまりの迫力に森から一切の音が消えてしまっていた。
 普段ならうるさいくらいの虫の音や小鳥のさえずりがあるのに。
 巨躯男から発せられる殺意を恐れて息をひそめているのだ。

 グッオオオオオオオ

 巨躯男が再び雄叫びをあげてグレアムに突進してきた。
 だがそれだけではすまなかった。
 吸血女の首がオードリー嬢を喰らおうとしていた
 バビエカの首肉を喰い千切って咀嚼しながら空を飛んでいた。
 絶体絶命という表現しか思い浮かばない状況になってしまっていた。

 ギャアアアアア

 とてつもない光が一帯を覆った。
 オードリー嬢の守護石が発動されたのだ。
 オードリー嬢の危機に反応して護るための力を放った。
 守護石の力ならば直接吸血女と巨躯男を簡単に消滅できる。
 だが守護石はその簡単な方法を取らない。
 
「うおおおおおお、力が、力が湧いてくるぞ」
「「「「「ヒッヒッヒィイイイ」」」」」

 グレアムのケガが完治していた。
 断裂していた身体中の筋肉が元通りに治っていた。
 重体で死の一歩手前まで言っていた馬達も完治していた。
 それをよろこんでいたのか、それともこれから戦えることをよろこんでいたのか。
 今度は荷車を曳いているラムレイ以外の三頭が協力して吸血女の首を迎え討った。
 互いの隙をかばい吸血女の首に攻撃する隙を与えない。

 一方のグレアムは迎え討つのではなく突っ込んでいった。
 人生最高の素早さを発揮していた。
 既に剣を抜き両手で構えていた。
 しかもその二振りの剣が光り輝いている。
 右の剣は赤く光り輝き、左の剣は青く光り輝いていた。

 だがグレアムはその事を気にしていなかった。
 何かの加護を受けたのは間違いない事だった。
 加護を受けた以上、剣が輝くくらい普通の事だと割り切っていた。
 一気に巨躯男の懐に入ったグレアムは、深く低く身体を沈めた。
 その姿勢で右剣で巨躯男の左膝を一刀両断した。
 流れるような動きで重心と体勢を移動させ、今度は左剣で右膝を一刀両断した。

 巨躯男は突進していた勢いのまま膝から上が前に飛び出す。
 グレアムは足裁きと重心移動で攻撃態勢を整え、右剣で巨躯男の首を斬り落としたが、それで安心する事無く左剣で頭を縦に断ち割った。
 吸血女が首と斬り落としても首だけ生きている事を重視したのだ。
 だがそれだけで安心する事無く、両肘から先を斬り落とした。
 心臓のある場所を突き刺した。

 それらの攻撃を一瞬で行ったグレアムは、素早い動きで吸血女に向かった。
 吸血女の首はしつこくオードリー嬢を狙っていた。
 だが復活前より格段に動きのよくなった馬達に阻まれていた。
 吸血女の首は馬達に気を取られ過ぎていたのだろう。
 背後から走ってきたグレアムに気がつかずに十字に両断されてしまった。
 これでようやく安全になったと思ったグレアムだったが、そうはいかなかった。
 また一帯が激しい光に包まれてしまったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】結婚しておりませんけど?

との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」 「私も愛してるわ、イーサン」 真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。 しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。 盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。 だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。 「俺の苺ちゃんがあ〜」 「早い者勝ち」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\ R15は念の為・・

公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】

佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。 異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。 幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。 その事実を1番隣でいつも見ていた。 一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。 25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。 これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。 何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは… 完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。

婚約者の浮気現場に踏み込んでみたら、大変なことになった。

和泉鷹央
恋愛
 アイリスは国母候補として長年にわたる教育を受けてきた、王太子アズライルの許嫁。  自分を正室として考えてくれるなら、十歳年上の殿下の浮気にも目を瞑ろう。  だって、殿下にはすでに非公式ながら側妃ダイアナがいるのだし。  しかし、素知らぬふりをして見逃せるのも、結婚式前夜までだった。  結婚式前夜には互いに床を共にするという習慣があるのに――彼は深夜になっても戻ってこない。  炎の女神の司祭という側面を持つアイリスの怒りが、静かに爆発する‥‥‥  2021年9月2日。  完結しました。  応援、ありがとうございます。  他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「ユスティーナ様、ごめんなさい。今日はレナードとお茶をしたい気分だからお借りしますね」 先に彼とお茶の約束していたのは私なのに……。 「ジュディットがどうしても二人きりが良いと聞かなくてな」「すまない」貴方はそう言って、婚約者の私ではなく、何時も彼女を優先させる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 公爵令嬢のユスティーナには愛する婚約者の第二王子であるレナードがいる。 だがレナードには、恋慕する女性がいた。その女性は侯爵令嬢のジュディット。絶世の美女と呼ばれている彼女は、彼の兄である王太子のヴォルフラムの婚約者だった。 そんなジュディットは、事ある事にレナードの元を訪れてはユスティーナとレナードとの仲を邪魔してくる。だがレナードは彼女を諌めるどころか、彼女を庇い彼女を何時も優先させる。例えユスティーナがレナードと先に約束をしていたとしても、ジュディットが一言言えば彼は彼女の言いなりだ。だがそんなジュディットは、実は自分の婚約者のヴォルフラムにぞっこんだった。だがしかし、ヴォルフラムはジュディットに全く関心がないようで、相手にされていない。どうやらヴォルフラムにも別に想う女性がいるようで……。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

処理中です...