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第一章
第30話:旅程5
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グレアムが後にした町で悪人だけが殺されている頃、グレアムに護られたオードリーは荷車の上で懇々と眠り続けていた。
この醜悪なこの世界で目覚めるのは嫌だと言わんばかりに深く眠っていた。
舗装も均しもされていない凸凹の道を、反動の激しい荷車に寝かされていて、激しい衝撃が加わっているのに全く起きる様子がない。
グレアムは周囲を警戒しながら夜道を進んでいた。
最初は麦畑が続いていたが、今は街道の左右が森になっていた。
かなり深い森で何が潜んでいるか分からない。
露店で用心棒のような事をしていた時に盗賊がいるという話があった。
そしてそれは紛れもない事実だった。
「ヒッィイイヒィンンン」
荷車の左前を歩いていたバビエカが警戒の嘶きを放つ。
一番気配に敏感なバビエカが森の中に敵がいると教えてくれたのだ。
「こちらからは攻め込まないぞ。
敵が近づいてきた迎え討つ。
バビエカとスプマドールは敵が弓の射程に近づくまでに迎え討て」
グレアムが的確な指示を出す。
荷車の上にいるオードリーに矢が届かないようにするためだ。
絶対に弓矢の射程にまで敵を近づける訳にはいかないのだ。
「「ヒッィイイヒィンンン」」
バビエカとスプマドールが、私達に任せろ言わんばかりに自信満々に嘶く。
二頭は戦う気満々だった。
生真面目なグレアムが一生懸命に育て鍛えた騎士用軍馬だ。
盗賊ごときを恐れるような臆病な馬ではない。
だがそんな戦意は不要だった。
オードリーを護る守護石がモンスターを引き連れていた。
オードリーに敵意を向けるモノを殺すためにモンスターを操っていた。
この世界に入り込んだモンスターをコントロールするためにも、近くに置いておく必要があるのだった。
そのモンスターを守護石が盗賊団に差し向けた。
旅人にはとても恐ろしい存在とはいえ人間だけの集団だ。
それもこの程度の街道の旅人を襲って生きている盗賊団だ。
人数にして五十人前後の数しかいない。
その盗賊団に千を越えるモンスターが襲い掛かったのだ。
ろくな抵抗もできずに喰い殺されるだけだった。
「「ヒッィイイヒィンンン」」
モンスターの気配を悟ったバビエカとスプマドールが警告に嘶いた。
スタリオンはグレアムを、ラムレイはオードリーを驚かさないように堂々としているが、二頭もモンスターの気配には気がついていた。
「なんだ、魔獣かモンスターが出たのか、油断するなよ」
オードリーと魔晶石とモンスターの関係を知らないグレアムと馬達は、緊張しながら街道を進み続けるのだった。
この醜悪なこの世界で目覚めるのは嫌だと言わんばかりに深く眠っていた。
舗装も均しもされていない凸凹の道を、反動の激しい荷車に寝かされていて、激しい衝撃が加わっているのに全く起きる様子がない。
グレアムは周囲を警戒しながら夜道を進んでいた。
最初は麦畑が続いていたが、今は街道の左右が森になっていた。
かなり深い森で何が潜んでいるか分からない。
露店で用心棒のような事をしていた時に盗賊がいるという話があった。
そしてそれは紛れもない事実だった。
「ヒッィイイヒィンンン」
荷車の左前を歩いていたバビエカが警戒の嘶きを放つ。
一番気配に敏感なバビエカが森の中に敵がいると教えてくれたのだ。
「こちらからは攻め込まないぞ。
敵が近づいてきた迎え討つ。
バビエカとスプマドールは敵が弓の射程に近づくまでに迎え討て」
グレアムが的確な指示を出す。
荷車の上にいるオードリーに矢が届かないようにするためだ。
絶対に弓矢の射程にまで敵を近づける訳にはいかないのだ。
「「ヒッィイイヒィンンン」」
バビエカとスプマドールが、私達に任せろ言わんばかりに自信満々に嘶く。
二頭は戦う気満々だった。
生真面目なグレアムが一生懸命に育て鍛えた騎士用軍馬だ。
盗賊ごときを恐れるような臆病な馬ではない。
だがそんな戦意は不要だった。
オードリーを護る守護石がモンスターを引き連れていた。
オードリーに敵意を向けるモノを殺すためにモンスターを操っていた。
この世界に入り込んだモンスターをコントロールするためにも、近くに置いておく必要があるのだった。
そのモンスターを守護石が盗賊団に差し向けた。
旅人にはとても恐ろしい存在とはいえ人間だけの集団だ。
それもこの程度の街道の旅人を襲って生きている盗賊団だ。
人数にして五十人前後の数しかいない。
その盗賊団に千を越えるモンスターが襲い掛かったのだ。
ろくな抵抗もできずに喰い殺されるだけだった。
「「ヒッィイイヒィンンン」」
モンスターの気配を悟ったバビエカとスプマドールが警告に嘶いた。
スタリオンはグレアムを、ラムレイはオードリーを驚かさないように堂々としているが、二頭もモンスターの気配には気がついていた。
「なんだ、魔獣かモンスターが出たのか、油断するなよ」
オードリーと魔晶石とモンスターの関係を知らないグレアムと馬達は、緊張しながら街道を進み続けるのだった。
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