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第一章

第6話:決意・オードリー視点

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 余りの苦しみと辛さと哀しみのあまり、気を失ってしまったようです。
 いつの間にか王宮から運び出されていました。
 ガタガタと激しく揺れる馬車の振動で目を醒ましたようです。
 私を王宮に連れてきた使用人用の荷車ではなく、王宮のゴミを捨てるためのとても汚い馬車でした。

「あんた随分と虐められたようだな。
 いけ好かない連中が俺達にも口を利くな何もするなと命令していきやがったよ。
 だが気にするんじゃないぜ、あいつらは人の皮を被った魔族だからよ。
 それにしても随分と痩せ細ってるじゃねえかよ。
 いい加減誇りを捨てて残飯であろうと食うんだよ。
 あの勇者様達でさえ、最初は誰の助けも受けられず魔族と戦われたんだ。
 残飯を食べてでも魔族と戦うと言われたんだ。
 さあ、これは王宮から出た残飯だ。
 しっかり食べて生きていく力を取り戻しな」

 王宮の下働きの人でしょうか。
 私を勇気づけてくれます。
 ですが何を言ってくれているのか分かりません。
 勇者様とはどんな方なのでしょうか。
 魔族とはどんな存在なのでしょうか。

 王宮でも公爵家でも聞いた事がありません。
 ですが久しぶりにかけられた人の優しさ真心には応えないといけません。
 誇りを捨てて生きる事はできませんが、真心には応えたい。
 その為なら残飯を食べる事くらい耐えられます。
 いえ、公爵家で食べていたモノがすでに残飯でしたね。
 今さら王宮で出た残飯を忌避する事の方がおかしいですね。

「ありがとうございます、食べさせていただきます」

 久しぶりに食べた白パンや肉はとても美味しかったです。
 いえ、美味し過ぎで頬が痛くなるくらいです。
 硬いわけではないのですが、顎の付け根が染みるように痛みます。
 
「沢山ある、遠慮せずにしっかり食べな」

 嘘をついてくれているのですね。
 表情と目を見れば分かります。
 残飯に比べて王宮で働く者の数は多いのです。
 下働き全員で分ければわずかな量でしかないでしょうに。
 私のために全部譲ってくれる心算なのですね。

「ありがとうございます、遠慮せずに食べさせていただきます」

 申し訳ないとは思いますが、全部食べさせてもらいます。
 この人の好意は私を生きさせるためのモノ。
 でも私が食べている理由は、自殺するための体力を取り戻すため。
 ジェイムズ殿下がモードを好きだというのなら、死んであげます。
 ですがただでは死にません、心から呪って死にます。

 やった事はありませんが、この世界には呪詛があると聞いています。
 真冬の冷水で身体を清めて、この恨み辛みを込めて呪詛するのです。
 命を捨てた呪詛です。
 少しは効果があるでしょう。
 その為には少しでも食べて冷水に耐えられる体力を付けなければいけません。
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